【覇道】
<Act.7 『雷獣の騒乱』 第0話 『暁隊の捜索劇』>
「“
私は表札の看板を確認し、建物を見上げて言葉をこぼす
昨日、隊長を含め隊員全員で“
噂になるだけあり、目撃情報はそれなりの確認がとれている
目撃者の共通点を調査していく段階で、少女と会話をしている人物を特定した
カノン学園高等部二年A組所属の北川 潤
彼は“
その際、少女と接触し何か少女の情報を得ている可能性があるのだ
目撃証言によると幾つか少女と会話をしたらしいからな
他の隊員も同じように有力そうな情報を求め、こうして話を窺いに行っている
私も北川殿より情報を頑張って引き出さねばな……
「オーランド。時刻は?」
「は、はい。今はえ〜と……10時12分です」
「うむ。ならば、失礼な時間ではないな。では、行くぞ」
私の隣に佇むオーランドとともに寮の玄関へと歩みを進める
一応、ドアをノックしてみるが、大きな建物なので聞こえないだろう
私はドアノブに手を掛け、扉を開けようとすると――
「あれ? 警備隊の人?」
「む」
庭の方より声が聞こえ、私の動きは止まる
視線をそちらへと向けると、金髪の青年がそこにいた
首にタオルを掛け、汗の滴る顔を拭いている
その手には竹刀
それを見て彼が学生であり、ここの寮生であると判断できた
「どうしました? 秋子さんに用でも?」
「いや、私達はここの寮生の北川 潤という者に用事があって来ました」
「え゛」
私は青年の方へと向き直り、真っ直ぐと見て用件を伝える
すると青年は奇妙な声をあげて、頬を僅かに引き攣らせた
妙な反応に私は小首を傾げ、今言った内容を心の中で反芻する
……ふむ。おかしなところはないはずだが?
動きの固まっている青年に対して不思議に思っているとオーランドが耳に口を近づけてきた
「あの、副隊長。多分、彼が北川 潤です。目撃情報の姿と一致します」
「ん? うん……ふむ、確かに」
大きな体格に似合わぬ小声で伝えられた言葉に私は目撃情報を思い返す
金の髪に中肉中背の体型
活発な顔立ちで笑顔が似合う、と……確かに合っている
私は状況を把握すると笑みを浮かべ、青年――北川殿へと声をかける
「あ、あの――」
「失礼。北川殿で間違いないかな?」
「あー……はい。北川は俺ですけど、何か用事ですか?」
何かを言い出そうとする北川殿の言葉を遮り、私は話しかける
すると何か諦めたような表情で自身を北川と認めた
ふむ……態度が怪しいな
何か後ろめたいのか、何か隠しているのか
とにかく、北川殿が何かを持っているのは間違いなさそうだ
私は期待に胸を膨らませつつ、言葉を続ける
「私達はカノン警備隊暁隊の者。私の名はアリス。こちらはオーランド。本日は北川殿に話を窺いに来た次第です」
「話? 学生の俺にですか?」
私の説明に北川殿は首を傾げる
確かに警備隊が一学生に話を聞きに行く、などということはあまりない
不思議に思っても仕方ないだろう
私は場所を変えようか悩んだが、寮に客として扱われるのも申し訳ない
ここは手短に話を済ませた方がよい、と私は判断した
「えぇ。以前、白狼を路上で販売していた悪人を撃退した件は覚えてますか?」
「えー……あぁ。そんなこともあったかな」
私の問いかけに北川殿は虚空を見上げ、記憶を呼び起こそうとする
もし嘘をつこうとするならば演技がここで入ってくるはず
北川殿は“
ならば警備隊への協力を拒む可能性もありえる
盗賊団“紅桜”壊滅の際は警備隊から逃げるように消えた、との供述もあった
つまり、“
ならば関係者に口止め協力を求めている可能性もあるのだから
「その際、白髪の少女とお話をしていますよね? その少女のことについてお話を窺いたく参りました」
「そうですか……でも、申し訳ないですけど俺、その子とそんなに話せてないですよ?」
「何かわかることとか……名前とか」
「いやぁ、一緒にいたダチがナンパもしたけど、あっさりフラれちゃったからなぁ……名前も、どこにいったのかもわかりません」
その当時のことを思い出すように語る青年
特別、怪しい演技等は感じられない
けれど、なぜか私の直感は彼に何かある、と感じているようだった
話す少年をまじまじと見つめて観察するが……怪しいところはない
言った内容にもおかしな点があるわけでもない
しかし……しかし、だな……
「副隊長。どうしましょうか?」
「むむむ」
どう聞いたものか
いや、結果として何も知らない、ってこともありえたわけだ
何も知らない彼に何を聞こうが答えることなどできない
しかし、なぜだ
なぜ私はこんなにこの青年のことが気になる
そこまで考え詰めた時、隊長の助言が頭を過ぎる
そうだった……北川 潤に聞く場合、これを聞けって言われていたのだった
私は聞く質問を一度心の中で確認し、そして口を開く
「北川殿。その白狼の一件以降、白き少女は見かけていませんか?」
「ん? んー……今は危ないし外にも出れないから、見掛ける機会もあまりないですしね。ま、見てないですよ」
またも何かを思い返すように宙を見つめ、考えた後にこちらに向き直してそう答える
苦笑を浮かべる表情には何も伝えれず申し訳ない、という色が滲み出ている
隣にいるオーランドは既に気を悪くさせていないか心配みたいで、少しおどおどしていた
だが、私は堂々と胸を張り話をする
私の中でまだこの北川 潤が無関係である、と判断出来ないからだ
「なるほど。では、少し話は変わりますが、北川殿は学園の依頼でマーブル遺跡の魔物退治、ダーア村付近の魔物退治に行きましたね」
「……行きましたけど、よく知ってますね」
「警備隊の情報網は甘くはないですから」
私は笑みを浮かべて言葉を返す
今のところ、彼の不審な点は何もない
だが、ここからがよく見ておかねばならないところ
少しでも心の揺らぎを見逃すことは出来ない
私は笑みを浮かべつつも鋭い心の眼差しで彼の動きに目を配る
「その際、傍に白髪の少女の姿が目撃されています。共に行動されているようですが、誰ですか?」
「――っぷ」
私の問いかけに北川殿はなぜか横に顔を逸らして息を漏らす
何かに堪えるように肩を揺すり、口元を抑えている
……何がおかしいというのだ
突然笑いを堪えだした彼に対して私は冷めた目で見つめていると、落ち着いたのか北川殿はこちらへと向き直る
「あー、すいません。一緒に行動した白髪の子はいますよ。誰かも知ってます」
「……誰ですか?」
「同じクラスの相沢 祐一って奴です。腕が立つので一緒に行動してるんですよ」
「相沢 祐一ってことは……男の人?」
「そうそう。男です。あいつ見た目が女っぽいからすぐ見間違えられるんですよ」
笑いながら話す北川殿には全く不審な点はなかった
しかし、女性と見間違う程の男性とは……
私は何か腑に落ちない点を感じながら彼の話を聞いていた
可能性としてはその相沢 祐一なる人物が変装し、白き少女となっている可能性もある
隊長の話ではそこで名の挙がる人物が白き少女の可能性がある、とのことだった
相沢 祐一……放置しておくわけにもいかないだろう
「では、彼に逢わせてもらえないか。白き少女のこと、何か知っているかもしれませんから」
「いいですよ。それじゃ俺、先に呼んできますのでお2人は中に入って待っててください」
「あ、いや――」
そう言い綴ると北川殿は急いで寮の扉を開け、中に入って行った
こちらの制止の言葉も聞かないままに……
私は呼び止めようと伸ばした手をゆっくりと下ろす
「……副隊長。彼、俺には怪しくないように見えましたけど……」
「……わかっている。だが、隊長も言っていただろう? 名の挙がる者は白き少女の可能性がある、と」
「はい」
「なら、その人物も確認しておいた方がいいに決まっている。ほら、行くぞ」
私の心の中にある迷いを感じていた
しかし、オーランドの言葉に私は理屈を返すと歩み出す
オーランドの言葉は私の中にいる迷いと同じ台詞だったのだ
私はそれを言い黙らせて進む
確認した方がよいのは事実なのだから
私は寮のドアノブに手を掛け、ドアを開ける
「失礼いたしま――……す」
ゆっくりと扉を開けると寮の中の光景が視界に飛び込んでくる
いや、それは当然だからいい
私が思わず動きを固めてしまったのは、こちらに向かい佇む謎の生物の姿だ
いやいや、落ち着け
謎の生物ではない
顔が真っ黒になっている男……だろうか?
先程の北川殿に背格好が似ているため、学生だろうか?
しかし、その異様な出で立ちでこちらに向かい呆然と立ち尽くす姿は不気味だ
「あ、あの――」
「んにんは。いまうざぴ。みささ、かるれくぅ〜?」
声を掛けようとした瞬間、相手も言葉を発した
いや、言葉ではなく――声
あまりにも予想外過ぎて一瞬、頭の中が真っ白になってしまった
な、なんだ?
この青年は何を言っている?
私の混乱を察したのかオーランドは半開きのドアを全開にし、中の様子を把握する
無論、その顔は私と同じで驚愕と困惑の入り混じったものだった
「さっでお。ずすい、くっらと? らぶろ、んさっにごーか」
「…………オーランド。わかるか?」
私は奇妙な手振りまで加え出した彼への対応に困惑している
冷静にそう対応する思考を取り戻せたことを自分で褒め称えたい
いやいや、そんなことより現状打破が優先だ
私の問いかけにオーランドは首を横に振る
まぁ、そうだろうな……
私もどうしたものか、と腕を組むしかない
んー、直に待っていれば北川殿が戻ってくるだろう……それまで待ってもらうか
私はそう考えをまとめると、まだ何か話しかけてくる彼に対して手を突き出し、制止の意志を伝える
「私、言葉、わからない。しばらく、待ってて、ほしい」
「…………えまお、るけう。じま、いろしもお」
「ん?」
今の返答の言葉が何か引っかかった
いや、意味はわからないがなんというかそのぉ……なんだ
私の直感が今の言葉に苛立ちを感じさせた
音の具合だろうか……?
意志は通じたのか彼は動きと声を出すのをやめて後ろへと下がった
「おぉ! 美人の声が聞こえたっ!」
「ん?」
階段の上より奇妙な声が降って来る
私の好まない雰囲気を感じる……嫌な予感だ
そう思った直後、階段を駆け下りてくる音が響き、一人の青年が姿を現した
灰色の髪に整った顔立ち
細身の体つきだろうか
長袖にジーンズと私服姿だが、芯が細い感じだ
そしてその表情は――ナンパしてくる軽い奴に見える
「どうも初めましてお姉さん。俺のいる寮に何か御用でしょうか」
「あー、今は相沢殿を待っている。北川殿が――」
「相沢!! あんな奴なんか放っておいてこの俺と出掛けましょう」
「いや、そんなつもりはない」
私の言葉を遮って青年は少し大きな声を出した
そして私の手を握り真っ直ぐと私の瞳を見つめてくる
私は手を振り払い、顔を背けて青年をやり過ごした
まったく、この間の傭兵といい……最近はこのような輩が多くて困る
「そんな! そんなにあいつがいいんですか!? そんなにあの男女がいいんで――ッグァ!?」
「おわぁっ!?」
目の前で熱く叫び出した青年に辟易していた
――が突如、青年が私の方に向かい飛んで来た
青年との距離が近く、また私も気を抜いていた
避けることができず、私は青年を体で受け止めてしまう
その倒れ込んで来た顔が私の胸に――ぶつかった
「ふ、ふ、ふ――不埒者ーーっっ!!!!」
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