【覇道】

 

<Act.6 『黒き剣士との過去』  最終話 『強敵達の密会』>

 

 

 

 

 

「そうか……あのギュウマがな」

 

ワシは先の攻撃についての結果報告を聞いていた

その中で信じ難がったのはギュウマの率いた群れの壊滅

1番群れのギュウマ、3番群れのサマキ、5番群れのチダン

総勢400匹相当の大攻勢部隊だった

最大の目的は陽動

2つ目の目的はあわよくばカノン街の殲滅

正直、人間の力を計るためのギュウマへの一任だったが……本当に敗れるとは……

ワシが雷を使わなければ互角の勝負をする猛者がギュウマ

人間め……侮れぬ

 

「ほら、私の言ったとおりでしょ? 人間ってのはここぞ、という時の力が侮れない、と」

 

そう語るのはモンキーのポニエル

ワシがその知能を評価し、参謀の地位を与えているものだ

紫の布を体に巻きつけ、黒いフードを被る変人ではあるがな

ポニエルは先の同時攻撃を考えたものでもある

その際、人間を侮るギュウマの発言に意見していたのも事実だ

無論、ギュウマはそんな戯言に耳は傾けなかったがな

 

「それで、ポニエル。これから先はどのように攻めるつもりですか?」

 

ポニエルの発言を無視し、新たに問いかけるのはゲアリ

黒い鱗に緑瞳の2mはある巨大ワニ――アリゲータの長で4番群れの長だ

ワシの群れの中では一番理知的で作戦と戦略をもって戦いに臨む

先の大攻勢では各村の迎撃に迅速に取り組んでいた

 

「オホン。先の攻撃で人間の各村は大きな被害を受けました。とても、カノン街への応援を出せる余力はないでしょう」

 

最大の目的はカノン街周辺の町村の壊滅

まぁ、滅ぼすとまでは行かずともカノンへの支援が出来なければそれでよい

まどろっこしいやり方ではあるが、確実でもある

ギュウマを倒したこともあるが、ポニエルの言うとおり

……人間の結束力というのは正直、侮れぬ

 

「そこで、いよいよカノン街への総攻撃を仕掛けます」

「オッシャ! 先頭はこのオレに任せろっ!」

 

ポニエルの言葉に真っ先に反応したのはバロウ

6番群れの長を務めるバッファローだ

バッファローにしては異例の黒の毛並みを持ち、炎も扱える強味がある

突撃に関しては誰よりも強い

先頭を任せるならば確かにバロウが適任だ

 

「はぁ……落ち着いてください。何も全員でまとまって突撃するわけではないのです」

「ァ? また小賢しい作戦とやらか?」

 

ポニエルの発言にバロウは鼻に皺を寄せて言葉を返す

その怒気を孕んだ言葉にポニエルは僅かに後ずさりしながらも、説明を始めた

 

「そうです。先程も言いましたけど、人間は侮れない。あのギュウマ様率いる群れでさえ迎撃されたのです。用心が必要でしょう」

「しかし、ギュウマの攻撃で人間の被害も大きいのではないですか?」

 

ゲアリの問いかけにバロウはそうだそうだと囃し立てる

アイツ……余程、全員で突っ込みたいのだな

その気持ちはわからんでもないが、ワシも今回の件は油断は出来ぬ

失敗は出来ないのだ……

帰る場所を捨てたワシ達には前に進むしか道はない

 

「確かにそれもあるでしょう。けれど、ギュウマ様を倒した人間は死んでいない。それも忘れないで頂きたい」

 

ポニエルのその一言で長達も言葉が出なくなる

ワシを除けばギュウマに敵う者はここにはいない

ギュウマの強さは群を抜いていた……ワシとてそれは認めねばならない事実

そんなギュウマを倒した人間……何者だ

そう思ったワシの脳裏を過ぎったのは、昼間カノン街で出会った白髪の少女――ユーだった

 

「ともかく、今回はポニエルの作戦に従え。ワシの決めたことだ」

「ありがとうございます、ボス」

 

ワシの一言で誰も口を開く者はいなくなる

ポニエルは弱い

ゆえに侮り、耳を傾けぬ連中ばかり……力が全てのこの世界では当然のことだ

しかし、ポニエルの知能はワシの群れの中で最も優れている

ワシはそれを評価している……誰がなんと言おうがな

ワシの支援にポニエルは深く頭を下げた後、説明を続けた

 

「では、話を戻しまして……カノン街への攻撃は四方向より同時に行います。街は東西南北の4つに門があるため、ちょうどいいでしょう」

「なるほど……同時に攻めることで敵の戦力を分断する、というわけですか」

「はい。まぁ、こちらの戦力も分散する形になりますけど、こちらは草原を自由に動ける優位性があります

 人間の目的は街を守ること。街への侵入さえすればもう人間は街を守りきることなど出来なくなるでしょう」

 

ポニエルの考えにワシもなるほど、と頷く

戦力を散らすことで門を突破する可能性を1つでも高めたわけか

中に入りさえすれば崩壊を招くこと等容易い

問題は入るまで、その後はどうとでもなる……か

ただ、同時にこちらの部隊も迎撃される可能性も高まる

特にギュウマを倒した人間がどこかの門にでもいれば……

 

「なら、オレは南から行く。人間の門なんざ、簡単にブッ壊してやる!」

「それならワタクシは西から攻めましょう。ちょうど、群れもそちらに待機させていますし」

 

バロウの意気込みの声が第一声

それに続くのは落ち着き払ったゲアリ

対照的な2人だが、声を聞くだけでどちらも安心感を与えてくれる

熱い気持ちのバロウと、冷静に状況を見れるゲアリ

両者ともに不足はあるまい

 

「バロウは群れの力はあるが個は弱い。サドムラを連れて行け」

「……だとよ。頼むぞ、サドムラ」

「……あぁ。了解した」

 

少し離れた木陰で佇んでいたサドムラはそう返事をすると、再び目を閉じる

人間でありながら魔物の世界に入り込んだ男

そのあまりの絶望感と冴えた剣腕が気に入り、我が群れに加えたのだ

まぁ、その絶望のために取り組みに関しては無関心

どこで剣を振るえるのか……それしか考えていない狂剣士そのもの

 

「では、東はバズゥにお願いしましょう」

「……僕? 任せといて」

 

静かにずっと話を聞いていたバズゥが始めて口を開いた

2mはある巨躯は丸く、白い毛で全身が覆われている

イエティと呼ばれる一族で雪や氷などの凍の属性を持つ一族だ

その中でもバズゥは幼いながらにして脅威の魔力を宿しており、その魔法力は想像を絶する

ゆえに知恵は足りぬところがあるがギュウマに続く2番群れの地位を与えている

ギュウマと同じく、そうそう敗れることはないだろう

 

「それで、ボイズには中盤、機を見て街へ上空より強襲を行ってもらいましょう」

「えー。アタシもするのぉ〜? アタシは必要ないんじゃないのぉ〜?」

 

木の枝に止まり、息を潜めずっと隠れていたのはボイズ

ルクと呼ばれる炎の神鳥とまで呼ばれる一族の者だ

群れにはぐれて彷徨っているところをワシが捕まえ、傘下に加えた

まぁ、無理矢理従わせているのでやる気も何もないが、その実力は一級品だ

このワシでも相当てこずったからな……

人間の建物を半壊させたのもこいつの力だ

 

「ボイズ。やってくれるな」

「……は〜い」

 

ワシの一睨みでボイズは首を竦めてそう返事をする

やる気がないのは最初からわかっている

だからやらせるのだ

空中から攻め込めるボイズの力はワシ達にとっても非常に大きい力になる

 

「以上で私の作戦説明は終了です。ではギガラントス様、どうぞ」

 

ポニエルはそう言い終え頭を下げると後ろへと下がる

そしてワシは焚き火の傍へと歩み寄り、ここに佇む長達を見渡してから口を開いた

 

「ギュウマは死んだ。ワシ達の数は半分近くになってしまったが、そんなものは関係ない

 人間の数も十分減っている。明日の夜、この作戦をもって人間の駆逐を終わらせる

 ワシ達の力を奮い、棲家を勝ち取るのだっ! ここにワシ達の楽園を築くのだっ!!」

 

ワシの言葉にそれぞれの長は声を張り上げる

夜の森に轟く雄叫び

その雄叫びが明日、人間の街を呑み込む

大森メロウスノーより飛び出し、いよいよ人間どもを追い払うことができる

大きな縄張りを持てれば宿敵ブリジスとの戦いにも終止符を打て、また豊かに暮らすこともできる

いよいよだ……いよいよ、なのだ

 

「ワシ達は勝つ。人間の未来を奪い去って、な」

 

 

 

 

 

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