【覇道】

 

<Act.5 『騒乱の火種』  第9話 『格違いの牛魔王』>

 

 

 

 

 

「上等だてめぇっ!」

 

ギュウマはそう叫ぶと大きな一歩を踏み込み、右手の斧を振り下ろす

迷い無き豪快な一撃

太刀筋は読めるが、そこに秘められた威力は恐ろしさを感じさせる

俺は鬼の力を宿した指輪――“斬鬼の指輪ザンキ・リング”を常に使用することを覚悟して横へと移動した

 

ドガァァッッ!!

 

強烈な一撃だ

斧は地面を抉るのではなく、吹き飛ばすように土塊を周囲へと飛び散らした

地面の悲鳴でも聞こえてきそうだな

俺は自分の方へ飛んでくる土塊をかわしながら、左手をギュウマへと向ける

 

「“邪を貫く光槍デリ・シルバ”ッ!」

 

少し大きめに精製した光の槍をギュウマに向けて放つ

それと同時に弧を描くように走りギュウマの右手へと移動する

ギュウマは迫る光の槍を見ると空いている左手で拳を作り、横に薙いだ

 

「ウラァッ!」

 

一撃

振り払う腕の一薙ぎで殺傷力のある光の槍を打ち払った

先程の蠍の硬い肌があるわけではない

さしずめあるとすればとんでもない怪力と――鍛えられた肉体

 

「“邪を焼き尽くす聖炎デリ・ガンド・ラン”」

 

ギュウマは俺の姿を追うように身を捻る

そして俺は光の球を生み出し、魔法を紡ぐ

伸びる光線と並ぶように俺はギュウマに向けて駆けた

 

「小賢しいぃわぁっ!!」

 

ギュウマは身を捻るのと同時に右手の斧を横に薙ぐ

邪を焼き尽くす聖炎デリ・ガンド・ラン”すらも力だけで叩き切ろうというのか!

それが可能なのかはわからないが、予感としてギュウマならする、という確信を感じる

俺は左手に再度光を集め、俺とギュウマの間の地面に向けて投げた

 

ブォォォォ――――

 

鳴り出す豪風

俺の耳にもその死を伝える音は聞こえている

俺は地面に投げた光の球にある程度近づくと、地面を蹴って低く跳んだ

 

「“祈りの光柱ティール・スン”」

 

慌てない

俺の思考はとても冷静で、状況を見る視野も落ち着いて見れていた

ここまでの強敵で、後に引けない状況だと逆に落ち着くらしい

俺は自分がいい状態であることを理解しつつ、慢心もしていない

この攻防で強く――攻める!

俺は生み出された光の円柱の上にのり、ギュウマを目前にして俺は上へと移動する

 

「さすが!」

 

薙ぎ払われる大斧は“邪を焼き尽くす聖炎デリ・ガンド・ラン”を薙ぎ払い、“祈りの光柱ティール・スン”をも切り裂いた

予想通りの結果に俺は光の円柱を蹴って中空へと舞い上がる

ギュウマは大斧を振り切っているが、その顔だけは上を向き俺を捉えていた

俺は左拳打に光を集め、そして――打ち出す

 

――“女神の拳骨ユー・ゲンコ”――

 

放たれる光の拳

だが、ギュウマから見ればこんなもの水鉄砲にも等しいだろう

だから、よく狙う必要があるのだ

急所――そう、目玉だ

光の拳打は俺の狙い通り、ギュウマの右目へと瞬時に迫る

それを気づいたのか、高速で迫る光の拳を見てギュウマの目は驚きで見開くが、咄嗟に顔を正面へと下ろした

 

「ぅっ!」

 

小さな衝撃がギュウマの頭上に叩き落される

僅かに頭が揺れ、小さな苦鳴が漏れる程度

やはり、そううまくはいかないか……

俺はそう思いながらも、既に片手剣の刃に光を伝導させていた

 

――“斬光ザンコウ”――

 

次は光の斬撃をギュウマの頭の上を目掛けて放つ

ギュウマはまだ正面を見ているためこの攻撃には気づいていない

そしてギュウマは頭上を再度見上げると――――

 

「――キェィッ!」

 

光の斬撃が直撃する直前で横から銀光が走った

銀光の正体は――槍

そしてその槍を持つのはコッケーのチダン

素早い突きは俺の斬撃を見事に捉えて光を四散させる

せっかくの一撃を防がれたことに少し悔しいが、何もこれは正々堂々な戦いでもないので文句は言えない

俺はバランスをとってそのまま地面へと着地し、コッケーも同時に着地する

そして俺とコッケーはギュウマを挟んで向かい合うが、そこでギュウマが口を開いた

 

「おい、チダン……てめぇ、どういうつもりだ?」

「危ない所だったアルから」

「はんっ。水差しやがって……」

 

事実は事実

ゆえにチダンは堂々と言い放ち、ギュウマも咎め切ることが出来ない

そして俺の方へと向き直るその黒瞳からは怒り等の感情が薄まっていく

逆に高まるのは戦闘意欲……とでも言えばいいのか

純粋に戦い――いや、殺し合うことのみを考える冷徹な瞳だった

 

「てめぇの戦法は小賢しいが、けっこうやりやがる……おもしれぇぜ」

「それはよかった。……それで、2対1でするのかしら? ギュウマさんともあろう人が」

 

俺の挑発の台詞にギュウマは乗って――こない

その黒瞳はとても落ち着いており、感情的ではなくなっている

……俺の強さをそれなりに認めたせいで逆に落ち着いたようだ

俺は困ったな、と考えているとギュウマは一歩だけ前へと出る

 

「やらせろ、チダン。この俺様と一対一サシできる奴なんかそうはいねぇからな。おもしれぇんだ」

「……わかったアル」

 

チダンは構えていた槍を下ろして一歩後ろへと下がる

……ま、会話の程はどの程度信頼があるかはわからないが、とりあえずギュウマには集中しよう

正直、こいつを相手にして他のことに気を回せる余裕はない

俺はいつでも動けるように足に力を溜めると――その巨躯が動いた

 

「ブッ殺してやるぞ小娘!!」

 

ギュウマはその巨体をもって駆けた

身を屈め、そして力強く早く地を蹴って駆ける

その重さに地面は揺れ、そして――迫る圧迫感は半端じゃない

濃厚な殺気を纏っているギュウマの突撃は十分に死を予感させる

 

「行くわよ――」

 

一つ、閃きにも似たことを思い浮かんだ

俺は迫り来るギュウマに対して自らも全力で駆ける

そしてギュウマは斧を振り被り、俺は剣を構えた

俺の視線の先はギュウマではなく、俺とギュウマの間の地面

あそこに到達したら――――――曲がる!

 

――見様見真似 “紫電しでん――

 

地面を蹴り、直角に右に跳んだ

そして着地と同時に前進してギュウマの左側へと回り込む

鬼の力がなせる脚力だからこそ動けたが――それでも足への負担は半端じゃない

俺はその痛みに膝が中々上がらないもどかしさを感じる

けれど、ギュウマは目前で消えた俺を見て明らかに動きも、視線も止まっていた

俺はギュウマへと近寄るが、足が追いついてこない

俺は全身より光を放ち、左手へと光を集める

その光か、それとも音でか

ギュウマの黒瞳だけが俺の姿を――捉えた

 

――“女神の鉄槌ユー・イカズチ”――

 

放たれる大きな光の拳

それはギュウマの体格と同じ程の大きさを誇る

だがギュウマは迫る光の拳を見て体をこちらへと開き、両手を広げて光の拳を受け止めた

 

「ウヌヌヌヌヌヌヌ――――」

 

なんと突き出された拳を体で受け止め、耐えている

俺はさすがに驚愕の光景に思わず動きも、思考も止まってしまった

そのままギュウマは力を込めて光の拳を締め付け、最後には――――

 

「フンッヌゥッーー!!」

 

抱き壊した

巨大な光の拳をただの怪力と鋼の肉体で耐え、壊した

素手での最強の攻撃だったので正直、ショックは大きい

だが、この程度のことで動きも思考も止めていては俺はここで死ぬ

俺はすぐに後方へと下がりつつ詠唱を紡いだ

 

「数多に散りし光の雫よ その身を礫と変えて我が力とならん 燈れよ光 一条となりて世を駆けん」

 

詠唱を唱えると俺の周囲に拳程度の光が2つ生まれる

ギュウマはその俺の様子を見てはいるが、まだ体勢を立て直している最中だ

大丈夫。十分間に合う!

 

「汝の名は流星 某方の名は疾風 全てを穿つ光となりてその身を螺旋にせよ」

 

2つの光の球はその身を高速で回転させて楕円形の形になる

俺の左と右で回り続ける光の球

その2つが動き出す時――――貫通力のある光が放たれる

 

「――“螺旋する二条の光線プロシャイシャ・デネス”ッ!」

 

詞を紡いだ瞬間、左右にある光の球は俺の目の前で交わり合う

そして螺旋を描きながら光線となりでギュウマへと疾しる

まさにそのスピードは――光速

 

グシュ――――

 

闇夜を駆けた光線にギュウマは左脇腹を掠めるだけだった

あの体勢からあの巨躯でこいつは紙一重――身を捻り動かしたのだ

そして血を滲ませながらもギュウマはギラつく黒瞳で俺を見つめ、その巨躯をもって駆け出した

 

「ゥォォォォォオオオオオ――――」

 

轟く怒号

その巨躯が駆ける脅威はどれ程のものか

俺はビリビリと大気を震動させるギュウマの叫びを受け、しっかりと足で地を踏み締める

負けてたまるか!

俺は剣を握り、剣へ光を伝導させる

 

――“斬光ザンコウ――

 

放つ光の刃

だが、こんなものでギュウマを止めれるとは思っていない

俺は光の刃の結果を見る前に光の球を眼前に4つ精製する

 

「行きなさい! ――“邪を焼き尽くす聖炎デリ・ガンド・ラン”!

 

4つ同時に発動させる

進行は遅いが4つ並んだ光の光線の威力は相当なものだろう

しかし、ギュウマは怯まない

先に放った光の刃はギュウマの斧の一閃で掻き消させる

ギュウマはそのまま駆け、迫る光線を前にして膝を曲げた

跳ぶのか!

瞬間、俺はギュウマに向けて駆けていた

鬼の脚力は人のそれを遥かに超える

瞬時にして俺は光の光線の尻へと追いついた

 

「オオオオオオオオ――――」

 

ギュウマは光で見難いはずなのに、俺の動きを見ていたか

斧をしっかりと振り被ってからその巨体で跳んだ

俺も地面を蹴り、自身を弾丸とするようにして跳ぶ

 

「“祈りの光柱ティール・スン”!」

 

左手の中に隠しておいた光の球を横に放つ

そして光の円柱として伸びた光は俺を直角に右へと弾いた

ギュウマの斧の軌跡から俺の姿は――なくなる

 

「ッヌゥッ!」

 

しかしギュウマは振り下ろした斧を手放した

空いた右手で右側へと動いた俺を追うように腕が伸びる

だが、遅い!

俺は剣の切っ先をギュウマに向けて構え、夢幻を変化させる

 

「伸びろっ!」

「ァグッ!」

 

切っ先が伸びた剣はギュウマの右脇腹へと突き刺さる

重厚な鎧をも貫くが、肉に食い込んだところで夢幻が伸びなくなった

っく! 凄い体しているな!!

いまだに俺に向かい伸びてくる右手を考え、俺は夢幻を変化させて刃を切断

そのまま下へと落下し、ギュウマもまたその巨体を着地させた

 

ドォォォォ…………

 

揺れる地面

着地した俺の足元も揺れたため、すぐには動けない

だが、ギュウマも同じだ

ギュウマは俺に向かって伸ばした右手で突き刺さる刃を引き抜いて捨てる

そして俺の方へと振り返り、殺気の黒瞳で俺を見た

 

「効かねぇよ」

「そうみたいね」

 

鼻で笑うギュウマに対して俺はなるべく落ち着いたように返事をする

……困った

正直、強い……倒すに倒し損ねる……

このまま長引いていけば周囲の魔物達がどう動くかもわからない

この状況での戦闘をするだけでも、一対一風に見えるが実際は違う

ギュウマに集中仕切れないのも事実だ

それに通常の状態でこれ以上鬼の力を使えば脚がイカれる

…………逃げるか

俺は次で決めると判断し、体の芯に佇む魔力の奔流を引き出していく

 

「……ぁん?」

「貴方は強いです。ギュウマさん」

 

俺は話しかけることで時間を稼ぐ

その間にも俺の魔力はどんどん高まって行き、全身より濃厚な魔力が溢れ出す

俺自身でも止め切れないのだ……

溢れ出す魔力は白光となって俺を仄かに光らせる

その異様な状況を見てギュウマを含め、魔物達は怪訝に俺を見ていた

 

「てめぇ、その魔力……」

「今宵はここまでにしておきましょう。またどこかで縁があれば逢いましょうね」

 

ギュウマの鋭い目つきに俺は別れの台詞を紡ぐ

何かを察知した魔物――チダンは動きを見せるが、もう遅い

 

「――“超過した溢れる光オーバー・ライティング

 

 

 

 

 

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