【覇道】
<Act.5 『騒乱の火種』 第8話 『決死の救出劇』>
「はぁぁっ!!」
俺は左腕のブレスレッドになっている夢幻に手を掛け、形状を片手剣へと変化させる
そして殺気の漲る背後へと振り返り剣を勢いよく切り上げる
ギィィィッ――
振り下ろされる曲刀と打ち合う
少し火花が飛び散ったかと思える程のぶつかりだった
刃の向こうには先程俺をここまで案内してくれたミノタウロス――グルゾがいる
突然の武器の出現にグルゾは驚きに目を見開くが、隙だらけだ
「“
俺は左手をグルゾへ向けると放つ光を瞬時に魔法として放つ
光の槍はグルゾの胸へと吸い込まれるが、その重厚な鎧を貫くには至らない
衝撃でグルゾはその巨体を僅かに浮かし、足を滑らせて後ろへと倒れ込んでいった
「交渉は決裂ですね、ギュウマさん」
「馴れなれしくすんじゃねぇーよ、人間のメスが」
交渉の余地はまったくと言っていいほどない
ギュウマの黒瞳はそれを俺に如実に語ってくれる
憎しみ、憎悪、憤怒など……人間に対する負の感情で満ち溢れていた
少なくともここにギガラントスが居ない以上は話でどうこうするのはもう無理だ
俺は闘う覚悟を決め、広がる敵を見渡す
「何もしないのでここから逃がしてほしい、という願いは通りますか?」
「ほほほほほっ! ムリにキまってるでしょ、コムスメ」
俺の意見に対して赤い蠍は斉藤を鋏で挟んだまま持ち上げた
案の定、知り合いということがバレたので人質といったところか
気絶したままの斉藤の容態も心配だ
ここは一気に――形勢を立て直そう
俺は左手のある青い指輪へと魔力を送り込むと、魔物達の間から驚きの声が上がる
「光アル……?」
俺の後方から光が立ち昇るが明かりでわかる
どうやら美凪も今がタイミングと思い動き出してくれたらしい
無数に浮かび上がる光の球は美凪の魔法――“
俺は光の球に気をとられている今が好機と判断し、指輪の力を解放する
「ッフ――」
踏み込む
景色の流れが速く、認識が追いつかない
だが、俺は赤い蠍へと瞬時に近づき、そして持てる怪力で鋏を抉じ開ける
突然、鋏に何かが触れて驚く赤い蠍
だが、その時には斉藤は既に俺の肩に担がれていた
蠍は俺の姿を捉え、殺気を叩きつける
そしてもう一方の鋏を――振り下ろした
「――“
遠くで魔法の詞が聞こえた
光の球達は光の槍を幾つも放ち、光の槍は広場に降り注ぐ
俺は折原の元へと駆け、面倒なのでそのまま折原も担いで身近な茂みへと飛び込んだ
「っな、な、な――」
「もう少しここでじっとしてろ」
戸惑う折原を無視して俺は脅すように低い声でそう言いのける
場は混乱しているのでもうしばらくならこの茂みに身を潜めていても問題ないはずだ
俺は光の槍が降り注ぐ広場へと振り返り、蹲っている舞の姿を探す
「あ……ったく!」
舞はよろけながらも立ち上がり、なんとギュウマの方へと歩み寄っていた
意識が朦朧としていて判断がつかないのか!?
俺は舞の方へと指輪の力を使い、瞬時に駆け寄る
「ま、魔物は……殺す……はぁ…はぁ……」
「ぁん? 死に損ないの小娘が何をほざいてやがる?」
「はぁ…はぁ…はぁ……」
舞は光の槍が降り注ぎ、混乱している場に乗じてギュウマの元へと歩み寄っていた
そして剣を構え、ギュウマに向かい言葉を吐く
ギュウマも舞のことを見下ろして見るが、その目は相手にしていない
だが――その右手にある斧が持ち上がる
くそ――間に合え!!
「目障りだメスがぁぁぁぁっ!!」
薙がれる斧
舞はそれを一瞬、呼吸を止めて太刀筋を見る
そしてよろけていたとは思えない動きで一歩後ろへと跳ぶ
斧の一撃は舞がいた場所を通り過ぎ、豪風で舞の髪をなびかせる
そして舞は攻撃直後で隙だらけのギュウマに対して――踏み込んだ
「はぁぁぁぁ――っ!?」
しかし、それも止められる
ギュウマは空いていた左手でなんと舞の剣を――握った
その怪力で握られた剣は舞の力ではどうすることもできず、舞は身動きを封じられる
「――死んどけ」
死別の台詞を吐き、ギュウマは先程薙いだ斧を振り戻そうとする
舞は剣を手放せばいいのになぜか剣から手を離さない
まずい!
俺はようやく舞の間合いへと踏み込んだところで、片手剣を等身大の盾へと変化させる
そしてそのまま盾を背中にして舞と斧の間へと割り込んだ
「ゥガッ――」
舞を抱くように飛び込み、直後に襲われる衝撃に思わず肺の空気が逆流する
舞だけは離すまいと力強く抱かかえ、俺と舞は衝撃によって吹き飛ばされる
そして地面を数回転がり、俺は舞を抱えたまますぐに起き上がった
どちらにギュウマがいるのか一瞬わからなかったが、その巨体ゆえにすぐに見つけることができた
「はぁ…はぁ…はぁ……」
舞に近づいてその怪我の深さを改めて感じる
抱えた手には血がどっぷりと付着し、舞の鎧も服も汚していた
早い呼吸に息切れ……かなり危険な状態だろう
舞の目を見て精彩さを欠き、少し虚ろな瞳でギュウマの方を睨んでいた
「ガキども……ここで死んでいけやっ!」
そう言うとギュウマは舞の剣を圧し折った
それを見ていた舞の体が打ち震えるのがわかる
そして舞は全身が強張ったかと思うと、全身から不意に力が抜けた
「っぁ……」
「“
左手に魔力を集め、白光に変換して舞の腹部へと当てる
俺の癒しの力を生かした治療魔法だ
怪我などの外傷に関してのみ効果があり、止血と患部の修復を行うことが出来る
体を貫かれた舞の腹部も見る見るうちに回復していく
……この状況ではこれ以上、続けるのは危険だな
光の槍による混乱も収拾してきており、俺は徐々に囲まれ出しているのは気づいている
「――ッフ!」
指輪の力を再び使う
そして合図もなく先程の茂みの方に向けて一直線に駆ける
途中で勘のいい魔物等は遮ろうと身を乗り出すが、俺はそれを左右に飛んでかわして茂みへと駆けた
「折原。舞を頼む」
「あ、あぁ……」
「治療は斉藤も含めて後でする。レン。例の場所まで案内を頼む」
「…………」
茂みに入り俺はすぐに舞を折原へと託す
そして状況を察して折原と合流してくれたのだろう
レンもその場にいたのでそのまま道案内を頼んだ
もしもの場合の集合地点はあらかじめて決めてある
レンは俺の言葉にしっかりと頷くと、俺は後のことは全て任せて思考を魔物の方へと切り替えた
「あ、相沢……」
「話は後だ。――行け」
俺はその一言だけ残して茂みを背にして広場へと振り返る
そこには既に事態の収拾を終えた魔物達が俺に向かって構えをとっていた
ひぃ、ふぅ、みぃ……って、数えれる数じゃないよな
ま、見たところ数は……200以上はいるだろう
さすがに多勢に無勢の状況に思わず、笑みがこぼれる
「また話をするとか言って、中々やってくれんじゃねぇかよ小娘」
「交渉が決裂したからですよ。私は争いたくはなかった……」
「ツゴウのいいこと。ニンゲンっていつもそうなのよねぇ〜」
ギュウマの言葉に台詞を返すが、もうこの連中との話は無駄だろう
敵意と殺意がこもった視線を身に浴びながら俺はそう思う
結局、人と魔物の闘争を止めることはできなかった……か
そう落胆していると赤い蠍が歩み出た
その目は語っている
ふざけた真似しやがって、ブッ殺してやる……ってね
「ギュウマサマ。このコムスメ、ワタシにマカせてモラエないかしら?」
「あらあら。たった一人で私に勝てると思ってるのですか? 相手はよく見て言ってくださいよ」
「なんですって……」
俺の割り込んだ一言で魔物達の目つきが更に変わる
遊び心がなくなり、俺への殺意で満たされていくのが肌で感じ取れた
……これだけの数だ
どれだけ頑張ってもレン達を追おうと思えば止め切れない
だが、俺にさえ集中してくれれば……
「小僧は放っておけ。この小娘を血祭りにあげてからじゃねぇと、何もする気ならねぇよ……なぁ! おまえら!」
ギュウマの一言で魔物達が湧く
ギガラントスがいない以上、やはりこの村におけるボスはあのギュウマで間違いない
さて状況は把握出来たが……どうやってここを乗り切ろうか
俺は全く浮かばない作戦にとりあえず焦らないことだけ気をつけながら夢幻の一部で剣を作る
「たったヒトリでどうデキるのか――ミせてチョウダイよ!」
まずは蠍
蠍はその巨躯ながらも、数本の足で素早い動きを可能にしている
そして恐るべきは魔法を寄せ付けない強度を誇るあの――硬い肌
俺は突き出される鋏を冷静に見切り、横へ跳んでかわす
ブォォッ――
鋏の大きさが既に俺の全身に近いものを誇っている
さすがにそれを素早く振り回されれば脅威だ
俺の横を吹き抜ける風を肌に感じてくらえば致命傷だと感じさせてくれる
俺は左手に魔力を集め、魔法を放つ
「――“
光球より放たれる光の光線
それは進みこそ遅いが誇る熱量と威力は抜群だ
俺は光線を影にするように動き、蠍へと気配を殺して歩み寄る
「コザカしいっ!」
蠍は驚くべきことにもう一方の鋏を一振り
それだけで“
こんな壊され方をしたのは初めてかもしれない
俺は驚くものの、それでも戦闘の思考は保っていた
飛び散る光の粒子
その中を駆けて俺は剣を切り上げる
それと同時に指輪の力も――解放していた
ガッギィィ――
想像以上に硬い
それが俺の今の感想だ
振り上げた剣の刃は蠍の首を捉えたのだが、その硬さで弾かれてしまった
無論、鬼の力を宿した一撃の衝撃は凄まじく、蠍の頭は後ろへと力強く逸らされる
だが、気絶していないということは溢れ出る殺気でわかっていた
俺は長引かせるわけにはいかないと思い、全身より光を放ち、左拳打を構える
――“
繰り出される拳に光が纏い、巨大な光の拳となる
その一撃は蠍の体よりも巨大に形成され、蠍を体ごと後方へと吹き飛ばした
その巨躯が飛ぶ姿に周囲の魔物から驚きの声が漏れる
後ろにいた数匹の魔物を巻き込んで蠍は地面に盛大に倒れた
「“
最後に左手から光の球を蠍の頭上に放ち、倒れている状態で光の円柱を叩き落す
その一撃で蠍の体は大きく跳ねるが、脱力して四肢を地面に垂らした
「……それで、次はどちらがお相手してくださるのかしら?」
殺してはいない
気絶しただけだろう
だが、これ以上この蠍に集中する余裕も今はない
俺を取り巻く魔物達……いつ一斉に襲い掛かってきてもおかしくはないのだ
それに今の蠍は俺の実力を完全になめていたからこそできた奇襲戦法
鬼の力、エクストリームの大技、魔法の連射
だが、今の戦闘を見てそれらはもうバレたのだ
闘えば闘うほど俺の状況を不利になっていく……
しかし、この状況から抜け出す術を俺はまだ見つけれていなかった
「では、我輩が相手を――」
「いや、てめぇは下がってろ。チダン」
歩み出ようとするコッケー――チダンに対して声を掛けたのはギュウマだった
ギュウマはその巨躯で魔物を蹴散らして歩み出る
その俺を見つめる目に油断など――感じられない
「群れを率いるサマキをあぁも簡単に倒すとは、やるじゃねぇか小娘」
「あら、そうだったんですか。でしたら、ギュウマさんも簡単にいくかしら?」
「言うな小娘。ま、簡単かどうかはてめぇで判断しろや」
そう言いのけるギュウマ
言葉での撹乱はこいつには通用しないだろう
自らの力に自信を持ち、その巨躯同様にまったく揺るがない
自分という確固たる存在の意思を持ち、俺と相対している
簡単にいく?
よくまぁそんなデタラメを言えたものだ
「では、お相手――させていただきますよ」
戻る?