【覇道】

 

<Act.5.5 『カノン街攻防戦』  最終話 『エア警備隊』>

 

 

 

 

 

「ふぁ〜ぅ……平和っていいよなぁ」

 

見上げる空には群青の蒼がどこまでも広がっている

広大な大地の広がりを感じつつ、俺は暖かな陽気を満喫中だ

そよそよと吹く一陣の風は緑の香りを俺に知らせてくれる

 

「たまにはゆっくりすることも必要だな」

 

丘陵には俺しかいない

いつもは供の一人でも連れてくるのだが、今日はのんびりしたかったので一人を満喫中だ

こうなだらかな丘で青空を見上げてぼけーっとする日も大切だと思うんだよね、うん

 

「なーんて言いつつ、ちょっと頭の中の整理でもしますか」

 

俺はのんびりもそれなりにしたので、仕事の思考へと考えを移す

最近、このエア街は平和続きなのは事実

まぁ、多少なりとて喧嘩とか行き過ぎた道場破り事件は毎度のことだけど……

凶悪事件や、警備隊の手を煩わせるような出来事は然程、起きていない

それだけエア街警備隊の実力も上がってきた、ってことだろう

 

「ま、今荒れてくるとすれば…………」

 

俺は懐をまさぐり、先日警備隊の本部に届いた一通の申請書を取り出す

それはカノン街警備隊からのもの

内容は実に簡単な話――大森メロウスノーへ魔物の討伐隊を派遣させる、というものだ

大森メロウスノーといえば魔物の温床となっている大きな森

巷の傭兵達の間では“魔の森”なんて通称がつくぐらいの危険な場所

ま、そこを解決しようとする意思はいいが、そんなことに兵を使ってもいいものなのかどうか……

 

「とはいえ、もうやっちゃってるんだよなぁ……」

 

申請書の一番下には豪華な印が押されている

カノン警備隊総隊長 麻宮 和寿殿の立派な捺印が、な

キー王国警備隊総督が我等が警備隊のトップではあるのだが、実際は北のカノン警備隊総隊長と南のエア街警備隊総隊長が実権を握っている

無論、総督の命は絶対ではあるがそれは王から指示が出たものを通知、遵守させるのが仕事

組織の実態を握るのは総隊長になるわけだ

つまり、和寿さんと俺こと――本郷ほんごう 一刀かずとにな

 

「ま、あの慎重な和寿さんが責任持つんだし、大丈夫か」

 

和寿さんは俺のようなひよっこの若造とは違い、長年現場で警備隊を勤め上げてきた経験と実力がある

その人がOKだしたんだし、俺があーだのこーだの言うべきものじゃないだろう

とはいえ……何だろうか、この胸騒ぎは……嫌な予感がする……

ゆっくりと見上げていた青空、流れる雲の風景を見ても今の俺の心は落ち着きを取り戻せない

理由も根拠もない

けれど、予感がするだけ……そう、ただの予感だ……

 

「……ミニ和人がいるから、大丈夫なはずなんだけどな」

 

カノン警備隊には和寿さんに匹敵する、佐伯 和人っていうとんでもない子供がいる

巷では子供隊長と騒がれているらしいけれど、あいつの才覚を知ればそんな冗談も言えなくなるだろう

俺は本物の天才ってのがこの世にいるとは思っていなかった

けれど、ミニ和人の存在が俺の認識を一変させる

知能はこの国でおそらく1番だろう

ま、経験や知識の不足はあり得るからまだまだ万能、ってわけではないけどな

しかし、問題はあの戦闘力

剣技に魔法はどれも超一級レベルだ

内の警備隊の最強であるなぎを圧勝したからな……12歳で

あの時の凪の落ち込みようと言ったら…………

 

「例え魔王が来てもミニ和人なら……って、それはちょっと大袈裟か」

 

思わず口に出た台詞に自分でツッコミをいれる

さすがに14歳の少年に魔王は大袈裟だな

むしろ、そんな期待を14歳に背負わさなくてはならない世界が嫌だ

……とはいえ、それだけの才覚を既に秘めているのは事実

あいつがいる限り、カノン警備隊が敗れるなどありはしないだろう

 

「んで、この不安かよ。自分の矛盾に呆れるね、まったく」

 

俺はサボルのも潮時かと思い、草原の上に起き上がる

固まった体をほぐすように両手を天へと突き出し、左へ右へと体を曲げる

平和がこんな感じで続けばいい……

エア街も一昨年までは治安が悪くなっており、俺も苦労してきたのだ

その苦労が実った今の平和を、乱させたりは――させない

 

「ん?」

 

草原の彼方

そこに人影が見えた

ちなみに、俺の名を呼ぶ声も

よくよく見れば警備隊の服に身を包んでいる

…………いつからこの俺の秘密のポイントがバレたんだ?

 

「そ、総隊長……凪隊長より、伝令です。し、至急戻られるよ、うに、と……」

「そっか。ご苦労様。んじゃま、戻るとしますか」

 

息が切れている隊員の件はとりあえず置いておいて、俺は街に戻るため歩き出す

おのれ凪め……いったいいつの間にこの場所を掴んでいた?

隠密でもいるのではないか、と思う程に次々と俺のポイントを発見していくなぁ

しかし! 負けるものか

必ずや見つからない絶好のサボリポイントを見つけてみせる

 

「ちなみに、何かあったのか?」

「はっ。自分も詳しくは聞いておりませんが、カノン警備隊より伝令が到着したとのことです」

「伝令、ね」

 

隊員が教えてくれた内容に思わず、表情が曇った

ずっと感じている胸騒ぎ

その原因がこれかもしれない、という確信にも似た勘を俺は感じていた

見下ろす街を前にして、表情とともに覚悟を強める

何があろうと平和を守る、という意思を……

 

「さて、何事なのか……受けて立つぜ!」

 

 

 

 

 

 

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