【覇道】

 

<Act.5.5 『カノン街攻防戦』  第3話 『チダン隊敗れる』>

 

 

 

 

 

「せぇっ!!」

 

刃を振るう

狙うのは確実に絶命出来て、尚且つ刃が切り抜ける場所

手首、首元、目、腹部などなど……

多勢に無勢では動きを止められたら終わりだ

それに同じ相手にいつまでも意識を留めておくことも出来ない

一瞬で見て瞬時に倒す

そうでもしなければたちまち囲まれて僕は殺されてしまうだろう

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

威勢のいい声と共に後ろから加勢が加わる

残りの傭兵達、4名だ

女性と男性2名ずつでそれぞれが得物を手に乱戦に参加する

先程の僕の戦闘を見ていたからだろうか

既に顔には迷いはなく、敵を倒すという意気込みで満ちている

 

「じゃ、一気に――行こうか!」

 

僕は殺気を放ち、僅かに敵を萎縮させる

そして自身の体を前進させ、刃を振るう

 

「ァグッ!?」

 

蛇魔物――スネークの首を一振りで刎ねる

噴出する血を浴びる前に僕は視線を切り、次に敵へと刃を翳す

 

「ウングゥァッ!」

 

緑肌の魔物――ゴブリン

手には木の棍棒が握られており、それを僕に向かって振り下ろす

けれど僕は棍棒を見切って紙一重で棍棒をかわす

空振りに終わるゴブリンを目前にして僕はゴブリンの首刃を添えた

 

プシャァァァ――

 

動脈を切る

吹き出る鮮血の勢いは噴水の比ではなく、ゴブリンは次に動く前に体を地に伏せた

僕は更に次の標的へと瞬時に迫る

次の標的は熊の魔物――ベアド

格闘センスに優れる魔物だけど、ゆえに動きは――――

 

「ッァグッ!」

 

振り抜く拳

けれど、僅かに振り被っただけで動きは読めている

僕は迫る拳を見切り、右頬の横を熊の腕が吹き抜ける

そのまま懐へと迫り、靴裏に風の魔法を強く発生させて宙へと自身を吹き飛ばす

 

「ッハ!」

 

一振り

それはベアドの首筋を綺麗に斬りつけ、ゴブリン同様の鮮血を吹き出せた

宙から地上を見下ろすと、少数人数でしっかりと魔物達を押し退けている

数は半数は既に地に伏せている

こちらの突撃力に勝てず、魔物達は徐々に左右へと隊列が乱れていた

ここでもう少し数を減らそうか

 

「風よ 風よ 我が剣の刃に集いて力となせ」

 

空中に留まり、そのまま刀の刃に風を密集させる

刃に纏わせた風はそのまま鞘の中へと納め、居合いの構えを僕はとった

エクストリーム

そう呼ばれる魔法と格闘技を合わせた技が今、注目されている

僕もそれに目をつけた

ただし、格闘技ではなく剣技と組み合わせた魔法剣として――だけどさ

 

――“風斬かぜきり――

 

振るわれる一太刀

居合いの軌跡より放たれたのは風の刃

それは左側へと逸れた魔物達へと頭上から襲い掛かる

巨大化した風の刃は数十の魔物を巻き込み、切り裂き、大地に傷跡をつける

一瞬、この場の戦闘が止まった――いや、止めてしまう程の威力

 

「さぁ、更に敵は減った! 一気に片付けよう!」

 

僕は地上へと着地しながら声を掛ける

動きが止まってしまった中、先に動いたのは――人間だ

魔物達も徐々に押されていることに気づいているようで、動きが鈍り出す

よし、このまま一気に片付けよう!

 

「ハァァァッ!!」

 

猛剣を振るうのはアリスさん

片手剣を神速と思える斬撃の連続で次々と魔物を切り伏せていく

僕は鋭さと素早さを武器としているけれど、アリスさんは剣技が武器かな

敵の一撃を剣で受け止めても、伝統ある剣技が反撃を繰り出す

まるで演劇のように決められた戦いをこなしているように、アリスさんを止めれる魔物はここにはいなかった

 

「ウキャキャッ!」

「君じゃ――無理だよ」

 

次に現われたのは剣を持った猿の魔物――モンキー

けれど僕は一振りでモンキーの剣を弾き飛ばす、次には首を刎ねた

動きの次元が違う

振り返れば無残に殺された魔物の死体が転がっているだろう

けれども、ここは戦場

甘えは決して――許されない

 

「隊長! 敵が逃亡を始めました!」

 

アリスさんは手近なスネークを切り倒しつつ、前方を見て叫ぶ

確かに残りはもう20体を切った魔物達だが、後方の方では僕等とは反対の方へと走る連中が見えた

勝ち目の無さを悟って逃亡か……正しい判断だけど、相手が悪い

 

「ランデルさん! 突撃お願い!」

「ぅ、ぅ――ぅぅぉぉぉぉぉおおおおおお――――」

 

僕の一声でランデルさんは叫び声とともに全身から炎を発生させる

その量は夥しい

ランデルさんの体格がいいから、ってのもあるんだけどキャンプファイアみたいになってるし

全身から炎を発生させながらランデルさんは逃げる敵に向かって突撃を開始する

まさに火の玉となっての攻撃

けれど、魔物相手に普通に走っては追いつくことは難しい

なので援護が必要だ

 

「――“世界を押す風神の腕ヒッテリ・アームド・バンズ”ッ!

 

僕は眼前のベアドの胴を斬り、すぐに左手をランデルさんの方へと向ける

そして目では見えない不可視の風の腕がランデルさんに迫る

僕は掌を広げ、ランデルさんを風の掌で――押し出す

 

「これで、完了」

 

ランデルさんは少し宙を飛ぶが、この鍛錬もしているので心配は無用

ランデルさんは無事魔物に追いつき、火の玉の体当たりを決めてくれた

振り返ればそこは魔物の死屍累々が地に並ぶ

正直、気持ちはよくないけど……誰一人味方が欠けることなく勝利出来たことは十分な笑顔の理由となる

 

「隊長。敵は全滅。味方、死亡及び重軽傷なしです」

「うん。報告ありがとう」

 

アリスさんは周囲を確認して状況を報告してくれる

…・・・僕も見ているのだからわかっている、とは言わない

アリスさんはアリスさんなりの真面目さを貫いているだけなのだから

こちらは怪我人もなしとはいえ、疲れは少し……見えるかな

 

「よし。それじゃアリスさんは皆を連れて先程の待機場所で待機。僕が戻るまで待ってて」

「はっ」

 

アリスさんは僕の指示に従い、敬礼をした後に傭兵達をまとめ出す

さて、と……

僕は振り返り、あいつが落ちた場所を見る

そこにはふらつきながらも立ち上がり、仲間の落とした剣を手に持つコッケーの姿があった

 

「はぁ……はぁ……な、何も、の…ぅぁ…アル、か……?」

「僕の名はカノン街警備隊 暁隊隊長の佐伯 和人。これで、満足かな?」

「……やる、アル……や、る…ア――」

 

震えながらも歩もうとするコッケー

こんな場所でなければ同情の余地もあったかもしれない

けれど、ここは戦場で、僕は暁隊の隊長だ

 

――“風斬かぜきり――

 

その場で居合い

居合いをする気配は悟らせなかった

ゆえに僕の居合いも渾身のものではない

けれど、それで十分

僕はすぐに踵を返し、待機場所へと駆ける

後ろから聞こえてきたのは最後のコッケーが漏らした死に際の苦鳴のみだった

 

「お待たせ」

 

待機場所に戻ると、皆は一息吐いたような状況だった

とはいえ、気はそれ程抜けない

戦況を見るにこちらの作戦は中々にうまくいっているようで、敵はまだ駿馬隊の後ろへは漏れていない

むしろ、徐々に敵の展開している領域を狭めており、優勢さはこちらにあるのは一目でわかる

 

「あ、蠍が……」

 

ランデルさんから言葉が漏れる

そう、たった今蠍がその大きな体を人混みの中に沈めた

おそらく、倒したのは藤堂さんとアバネさんだろう

あれで駿馬隊が前進できる

まぁ、進んだところで待つのはミノタウロスの近衛兵達だ

ここからは消耗戦になってくる……

 

「オオオオオオオラァァァァァァァァァァァ――――」

 

大気を震わす轟き

それはあの大きなミノタウロスのものだった

戦場に響き渡る絶叫はやはり、敵味方関係なく影響を及ぼす

そしてミノタウロスは何を思ったのか、こちらを見たかと思えば前進を――始めた

 

「げっ。あの野郎、動くのか……」

 

傭兵から漏れる声

そう、ボスのように君臨しているので最後に倒さねばならない

そんな雰囲気を感じさせていたかもしれないが、これは物語ではない

勝つために何をしなければならないか、をあのミノタウロスはしっかりと考えている

 

「しまった! あれでは……」

 

大きなミノタウロスは動き出してから早い

近衛兵のようなミノタウロス達は道をあけて、大きなミノタウロスを先頭に出す

あの巨躯で突撃

そしてそれに続くのは陣形をとったミノタウロス軍団

突撃の型に相応しい三角形を描き、奴等は突っ込んでくる

 

「間に合わなかった、か」

 

藤田さん達の行動は泡に帰した

本体が動いてしまってはもうあの作戦に意味はない

まぁ、ちょっと予想以上にこちらが健闘し過ぎたみたいだね……

今、オレルドさん達がどの辺りにいるのかはわからないけれど、後は自己判断に任せよう

 

「皆。陣形をとるよ」

「……え?」

 

僕の一言に驚きを漏らしたのは傭兵のお姉さんだった

まぁ、意味をわかっているのか、わかっていないのかはわからないけれど……あんまり嬉しい話じゃないよね

僕は一度、正面から目を切り、後ろへと振り返って話を始める

 

「敵のボスがあの場所から動いた以上、藤田さん率いる奇襲部隊の作戦は失敗だ

 そして敵は三方向からの攻めに耐えかねて一点集中突破を試みている

 僕の見立てではおそらく、駿馬隊でも止めることは出来ない。となれば、ここに連中がやって来る」

 

思わず、誰かの生唾が飲み込む音が聞こえる

まぁ、あの駿馬隊ですら止めれない相手がここに来るんだから緊張もするだろう

いや、緊張というよりも恐怖かな?

一応の保険でこの門の真正面に待機していたけど、さて……止めれるかな

 

「陣を組み、敵の気鋭を削ぎ、足を止める。作戦は藤田さん達と同じでいく」

「え……俺等であの大きいのを……?」

 

ランデルさんの戸惑いの呟きにアリスさんが少し睨んでた

当たり前だろう! って感じでね

思わず苦笑を浮かべてしまい、僕は話を続けた

 

「心配しないでいいよ。あのボスとは僕が一対一で相手をする。皆は周りのミノタウロスを相手にしてほしい」

「なっ!?」

 

その説明に大きな声をあげたのはアリスさんだった

あまりにも衝撃的だったのか、言葉ではなく声が出るだけになっていた

けれど、他の面子も同様……ま、当然かな

僕は時間もないんだけどなぁー、という愚痴を心の中で漏らすと、正面にアリスさんが迫って来た

 

「隊長! 1人でなんて無茶です! 私も一緒に戦います!」

「ダメ。これは隊長命令だよ」

「〜〜〜っ」

 

真面目なアリスさんは命令には絶対だ

歯痒い思いで僕を見ているのがその瞳から伝わって来る

……はぁ。後が怖いのでしっかりと話をしておこう

僕はアリスさんの目を真っ直ぐ見据え、口を開く

 

「僕は強いよ。信じてくれないかな?」

「……隊長が強いことは知っています。ですが――」

「――は、なしでお願い。まぁ、見ていてよ。試合の本気とはまた違う、僕の本気を見せてあげれそうだからさ」

「え……」

 

僕は少し喋り過ぎたことに後悔はしていない

気分が少し、高揚して来ているみたいだった

本気

そう、本気になったことは幾度となくある

強敵と見えたことも、もちろんある

けれど――全力を出しても出しても絶対に殺せない、という相手はまだかもしれない

僕は生まれた時から才能に恵まれていた

剣も、武術も、文学も、知識も、魔法も……正直、何でも出来る

だから武術という礼儀を重んじず、何の制限もない死闘なら勝てない、と思う相手はいまだかつていない

キー王国最強の人物が例え目の前に現われても、負けるつもりはない

だが――確率は100%ではなくなってくる、とも思う

それだけの死闘を演じれるこの状況で、あれだけの強敵が迫っている

全力の全力を出し切れるかもしれない

そう思うと、僕は僅かにだが徐々に気分が高揚していくのを感じていた

 

「さて、勝負といこうか」

 

 

 

 

 

 

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