【覇道】

 

<Act.5.5 『カノン街攻防戦』  第0話 『傭兵チーム出発』>

 

 

 

 

 

「……ふぁ〜ぅ。ねみぃ……」

 

まだ体は起きていない

そう主張するかのように欠伸が止まらなかった

体で伸びをすると、まだ一体感を感じられない鎧の冷たさを胸に感じる

完全に寝惚けてる……夕べはしっかりと寝たんだけどな?

 

「ふふっ。浩之、寝癖ついてるよ」

「ぁ? ぁー……ま、いいだろ」

 

雅史に指摘され、頭を触ると確かにはねている部分があった

が、それほど大したはねでもないので気にしなくてもいいだろ

そう思った時、玄関から声が飛ぶ

 

「浩之ちゃん! もう、ちょっと待って!」

「お、あかり」

 

あかりは小走りで駆け寄ると鞄から櫛を取り出して俺の髪を梳かす

っていうか、今から戦場に行くのに櫛持ってたのか……

俺は寝惚けたままあかりに髪を直してもらう

なんというかその、気持ちいい、な……

そう思った時、髪から櫛が抜け目の前であかりが一息ついた

 

「もう、浩之ちゃん。身嗜みもしっかりしないとダメだよ?」

「わかってるよ。サンキュ、あかり」

 

そう、俺はわかっている

わかっているがしないだけだ

とはいえ、直してくれたことには感謝している

俺の礼の言葉にあかりは笑みを浮かべ、応えてくれる

 

「おはようございます! 先輩!」

「おはようございます、藤田さん」

「おう。2人とも、おはよう」

 

次に玄関から出てきたのは琴音ちゃんに葵ちゃん

2人とも今日はバッチリ戦闘衣装だ

俺も全員が揃ってきて、ようやく頭の中がスッキリしてきた

 

「今日は晴れるね、浩之」

「みたいだな」

 

雅史の見つめる先は朝日が僅かに照らす白みがかった空

まだ陽は出ていないが、そろそろ日の出だろう

空模様を見ても久々の快晴が期待出来そうだった

まぁ、吹雪く中の戦闘よりもよっぽど楽だからちょうどいいぜ

 

「あかり。集合時間は何時だ?」

「えっと、東門のところに6時集合だよ」

「……後一時間ですね。十分間に合います」

 

琴音ちゃんは時計を確認して告げる

なるほど……ま、寄り道すると遅れそうだしたまには真っ直ぐ向かうか

俺は愛剣を担ぎ直して気合を入れ、誰もいない道の先を見据える

 

「よーし。それじゃ出発するぞ」

 

俺の掛け声にそれぞれが返事を返す

俺達が目指すは東門

そこにはもう、警備隊や他の傭兵どもが集まってきているかもしれない

静かでまだ起きていない街

この街の平和を守るために今日、俺達は戦うのだ

 

「先輩。魔物が村を壊滅させるなんて、強い魔物がいるんでしょうか?」

「どうかな。群れがたまたま村を襲う、ってこともあるしな。数が多すぎて対処出来なかっただけもしれないな」

 

レイソン襲撃事件

各市町村には規模に応じて警備隊が配備されているのは当然だ

だが、レイソンの規模は村

ということは警備隊は多くても10名ってところだろう

もし魔物の群れが食糧等を目当てにして襲えば防ぐことは難しい

まぁ、たまに魔物襲撃は耳に聞くので災害の一種に近いな

 

「……しかし、生存者は10名にも満たなかったみたいです。これは異常だと思います」

「確かにな。警備隊の避難誘導の不手際でもなければおかしいよな」

 

琴音ちゃんの台詞は実に的を得ている

もし魔物が食糧等を目当てに襲ったのであればその間に人間は逃げることが出来たはずなのだ

そもそもハイエナのように群れれば動きはバラバラで、散り散りとはいえもっと大勢の人間が逃げれたはず

しかし、生存者はたったの10名

それはあまりにも少な過ぎる数字だ

 

「……もしかして、人間を襲っていたから、とか?」

「可能性は高いな」

 

あかりの推測は正しい

これだけ生存者の数が少ないのならば故意に人間を襲っていた、としか考えられない

逃げようがどうしようが、魔物は人間を狙っていたのなら生存者が少ないのも納得がいく

だが――――

 

「それでも今回の生存者の少なさは異常だね。強敵がいる、と考えておいた方がいいと思うよ」

「だな。よっぽど強い奴がいるのか、それとも異常に統率のとれた群れなのか……いずれにしろ、簡単にはいかないだろうぜ」

 

雅史の発言がほぼ答えに近い

何がいるのかはわからないが、相手が手強いというのだけは間違いないだろう

この間の“紅桜べにざくら”の一件の時同様、相当気を引き締めていかねぇとな

そう思うと僅かに頭の隅で白い影が過ぎった気がした

 

「…………今回の魔物は悪だ。俺はそう思うぜ

「え? なに、浩之ちゃん?」

「んぁ、なんでもねぇーよ」

 

思わず小声で言っていた

ここにあいつがいるわけじゃない

ただ、それでも俺に訴えかけているような気がしてならなかった

……どうもあの一件以来、魔物のことになると気にかけてしまう

だが、それはそれでいい……なんか世界の不条理さとか感じない考え方だった

俺はそれに凄く共感している

 

「よっしゃ! 今夜は祝勝祝いを必ずするぞ! 気合入れてくぞ!」

 

 

 

 

 

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