【覇道】

 

<Act.5 『騒乱の火種』  第4話 『カノン街を目指せ』>

 

 

 

 

 

「相沢! 起きろ! 警備隊が来てるぞ!」

「っ!」

 

昨日の疲れを癒すように気持ち良く眠っていたのだが、北川の声で目が覚める

昨夜は青年――秋田あきたさんの話を聞いた後、北川と2人で考え込んでいたので寝るのが遅かった

北川が既に起きているということは、もしかして眠れなかったので――

そこまで考えて思い出した

北川は朝の鍛錬を欠かさない程の早起きさんだったということを

俺は起きてすぐに窓際のカーテンにところにいる北川に並ぶ

外には確かに白を基調とした制服の連中――警備隊が佇んでいた

人数は30名前後

ちょうど一部隊と呼べる人数だろう

 

「……あ。秋田さん……」

 

大き目の家――村長である秋田 鐘路さんの家だ

そこから警備隊の人に挟まれ、手に縄をかけられた秋田さんが連行されてくる

昨夜、秋田さんは言った

自らの罪を償うため自主をする、と

まさにその言葉通りに行動を移したのだろう

凄く真っ直ぐな人……なぜ彼が30歳という若さにして村長に選ばれたのかわかる気がする

 

「なぁ、相沢。秋田さんのしたことって……悪なのか?」

 

秋田さんはこの村に流行った伝染病――ラビニー病の対応に悩んでいた

ラビニー病とは魔物のラビットの持つ病原菌で発生する高熱を発する病気だ

薬はアウラニア草というものを使い精製されるらしい

しかし、このアウラニア草というのは風邪薬等の多くの薬で多用される薬草で採取の量は国で定められている

しかも、今は在庫が少ないらしくこの村にすぐに手配することが出来ない、と国に返答されたらしい

そこで秋田さんは友人のガラッグさんとともにアウラニア草がある大森メロウスノーへ密猟した

だが、そのアウラニア草を寝床にしていた大きなゴリラみたいな魔物がいたらしい

護衛で雇った傭兵を囮にして命からがらダーア村まで逃げるものの、追って来た魔物がいた

魔物の相手を常駐する警備隊に任せるが全滅

そしてあの襲撃事件へと繋がって行く…………

思い返してみても、なんとも後腐れの残る事件だ

村長である秋田さんの想いも痛い程わかる

しかし、国の条例を破っているのも事実

そして破ったがためのこの大惨事……やはり、俺は…………

 

「悪だ。この惨事を招いたのは間違いなく秋田さんだ。行動するにしても別の方法を考えるべきだったと思うよ」

「……そっか」

 

昨夜もこの話で少し夜更かしした

俺の変わらない意見を聞いて北川は頷きながら返事を返す

その目は片時も連行される秋田さんから目が離れない

 

「……ただ、必要な悪、っていうのも時にはある。その判断を間違えないこと。そして自分で決断したことのケジメはとること

 その2つを気をつけて、覚悟があるならこういうこともあるんじゃないかな……と、俺は思ってるよ」

「………………そっか」

 

俺の台詞に北川は苦笑を浮かべて相槌を打った

俺とて完璧な答えなど――いや、こんなことに正解なんてない

だけど、俺は俺なりの答えとしてそう言った

北川はそれらを参考にして北川の答えを出せばいい

 

「北川。準備をして俺達も村を出よう」

「ん? どうしたんだ、急に?」

「いや、ちょっと警備隊は苦手でさ……」

 

俺の台詞に北川は少し怪訝な目で俺を見るが、何かに思い至ったのか口を開いた

 

「あぁ! 白狼の子の件のこと気にしてるのか?」

「ま、まぁな」

 

そういえば北川と初めて出会ったのは白狼の子を助ける時だった

まぁ、あの件も北川がその場は収拾してくれて、最後はどうなっているのか俺は知らない

ま、そういうことを含めて警備隊は敬遠したいのであながち間違いでもなかった

だから俺は相槌を打つと北川は笑みを浮かべてくれる

 

「そっか。ならさっさと依頼人と話をして町を出ようぜ」

 

北川はそう言いながら振り返り、俺の方を見て顔が固まった

……? どうしたんだ?

俺は自分の姿を見下ろすが、別におかしいところは見当たらない

小首を傾げて北川の方へと見直すと、北川は顔を逸らして囁く

 

「…………なんか目に毒だから、着替えてくれ」

 

裾が少し眺めのTシャツに短いパンツ

俺の寝巻きだ

後は髪をまとめていないので膝位まで伸びている

これの何が毒だというんだ……失礼な

 

「わかったよ。早く着替えて村を出よう」

 

 

 

 

「ここだな」

 

道具屋アプリ

看板にしっかりと刻まれた文字に見間違いはない

小さな村なので探せばすぐに見つかった

2F建ての建物だが、店になっているのは1F部分のみのようだ

2Fはおそらく自宅だろう

 

「失礼しまーす」

 

北川は扉を開けて店内へと入り、俺もそれに続く

店内は昨日の襲撃があったにも関わらず、綺麗に商品が並んでいた

扉を見ても傷等なかったので、バッファローに襲われなかった運がいい家の一つだったのだろう

店内を見渡すとカウンターに一人、女性が座っていた

 

「あら、いらっしゃい」

 

短い茶髪の女性

瞳も茶色がかっており、不思議そうに俺達を見ている

客かどうか、という判断に悩んでいる、という感じだ

 

「あの、俺達――」

「あ! 昨日、村を救ったカノン学園の生徒さんでしょ!」

 

北川が話し出したところで早速、言葉を遮られた

驚きながらも笑みを見せる女性に対して俺達は少し戸惑う

村を救ったって、また大袈裟な……というか、少し恥ずかしい

さすがに村の全員が見ていただけはある

ダーア村で俺と北川は一日にして有名人となったわけだ

 

「え、えぇ。そうですけど……」

「昨日は本当にありがとう。今、こうしていられるのも貴方達のおかげよ」

 

そう笑顔でお礼を言われて、北川はまごつくしかなかった

まぁ、無理もないだろう

これほどの感謝を人からされるなんてこと、そうあるもんじゃない

どう対応すればいいのかわからず、困っている感じだ

さすがに放っておくのも悪いので、俺も会話に参加した

 

「あの、私達魔物退治の依頼の件でお伺いしたのですけど……」

「あら、ごめんなさい。つい、興奮しちゃって」

 

俺の一声で少しは冷静になれたのか、女性は苦笑を浮かべて少し後ろに下がる

まぁ、北川の手をとっていたぐらいだ

感謝の気持ちが十分にあることは俺にも伝わっていた

一方の北川は凄い勢いで迫られてたじたじ……今も少し呆然としている

 

「依頼の件だけど、主人は今警備隊の事情聴取を受けているの。それに村はこの状態……正直、依頼はキャンセルかしらね」

「そうですか。わかりました」

 

依頼人本人ではないが、まぁ状況を察してもキャンセルなのはわかる

奥さんの返答であれば十分、本人と同意の効果もあるだろうし問題ない

奥さんの一言に俺は満足し、そう言葉を返した

 

「それでは私達、急ぎますのでこれで失礼させて頂きます」

「え? あ、あの――」

「ほら、行くわよ」

「――へ?」

 

俺は有無を言わさずにそう言い切り、一礼をしてから入り口へと向かう

まだ呆然としている北川の手を掴み、本人の意思は無視して引っ張りながら俺は出口へと急いだ

女性が呼び止めようとするのを感じたが、あえて聞こえないフリをしてやり過ごす

俺は急ぎ足で道具屋を後にして外へと飛び出す

そしてそのまま村の入り口の方へと北川を引っ張っていく

 

「お、おい! 相沢、どうしたんだ!?」

「これ以上この村にいるとヤバイ」

 

戸惑う北川を無視してそのまま街道の方へ――――っと

俺は村の入り口に警備隊が立っているのに気づき、足を止める

そして周囲を見渡し、手近な民家の影へと移動する

 

「やばいってどういうことだ?」

「あれだけ感謝されていたら、もっと滞在していきなさい、と言われるかもしれない

 今は他の人達も悲しみに暮れているだろうし、俺達の感謝は二の次だ。今の内に退散する方がいい」

「……そういうものなのか?」

「なら聞くが、北川は感謝されたいから戦ったのか?」

「っ」

 

俺の一言に北川は言葉が喉に詰まったように何も言えなくなった

静かに、けれど冷静さを保とうと一生懸命に北川は思考する

数秒後、少し真剣味を帯びた表情で口を開いた

 

「……違う。俺は別に感謝されたいから戦ったわけじゃない。ただ――」

「――助けたかっただけ、だろ? なら、これでいいじゃないか」

「……そうだな」

 

北川の先の言葉を奪い、先に言う

それを聞いて北川は少し考えた後、そう答えた

その時には既に北川の顔はいつもの北川に戻っていた

 

「さて、それでは問題だ。村の出口に警備隊が2名、警備のためか立っている。さぁ、どうする?」

「……警備隊に挨拶して出てく、ってのはダメだよな?」

 

北川の返事に俺は力強く頷く

まぁ、ダメとわかっているが一応の確認、というところだろうか

俺は理由はわかっていないようなので解説を付け加える

 

「さっき道具屋の奥さんが旦那さんは事情聴取を受けている、って言ってただろ?」

「ん? ……確かにそう言われてみれば、そうだったかも」

 

俺の質問に北川の返事はかなり曖昧だ

それで思い出したがその時の北川は少し呆然としていたんだった

 

「ってことは、だ。より事件に深く関わっている俺達が事情聴取をされる可能性は高い

 むしろもうしばらくすれば俺達を探し出すぐらいの勢いになるだろう」

「確かに……でも、なんで事情聴取を受けたらダメなんだ?」

「――俺が嫌だからだ」

 

俺の決定的な一言で北川の顔が強張った

おーおー、凄く驚いているなぁ……

ま、なんか凄く理屈っぽく色々と言っているが、ようはそういうことだ

それに事情聴取ってのにいい響きを感じない

あることないこと聞かれてるとイライラもしてくるしな

……必要なことである、という認識はあるがそれを俺が受けるか、となると話は別だ

 

「……ま、いっか。相沢がそんな我侭言うのも珍しいし、付き合うぜ」

「サンキュ、北川」

 

北川の返答に俺は嬉しくて笑みをこぼす

話のわかる男北川

俺の中で北川の友好度はぐーんとUPしたぞ、今

喜ぶのもそこまでにして、俺は思考と顔を切り替える

 

「それで村から出る方法だが、街道じゃなくて森を突っ切って行こうと思う」

「森を?」

「あぁ。幸い、この村は森の中にあるから仕切りとなる柵とかもない。木々に紛れれば十分、気づかれずに村を出れる」

「……方向は大丈夫か? 俺達、この辺りの地理感ないぞ」

「あぁ。今日は太陽が見えるし、少なくとも方角はわかる」

 

俺の答えに北川は空を見上げると、確かに太陽は目に見える位置にある

雲もそれ程多くはないので今日は快晴になりそうな気配を感じさせる

その空模様を見て納得したのか、北川は俺に向き直ると首を縦に振った

 

「よし。それじゃ、それで行くか」

「じゃ、こっちだ」

 

北川の合意を聞いたところで俺はすぐに民家の隙間へと身を滑らせる

もちろん、再度周囲に人影はないか確認してからの迅速行動だ

北川の俺の突然の動きに驚くが、すぐさま俺の後に続く

飲み込みが早くて助かる

 

「あっちの方角に一度向かう。木々も多いし、街道から離れるから警備隊の目も届いていない」

「……鬱蒼としていてちょっと不気味だが、仕方ないか」

 

安全な道、とは確かに言えないだろう

北川は不安を感じるのもわかるが、それでも文句は言わない

傭兵なら危険はなるべく避けて本番に備えるもんだが、今が危険なのでいいだろう

……俺的に警備隊のウロウロする村でゆっくりしたくない

 

「よし。それじゃ俺の後について来てくれ」

 

 

 

 

 

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