【覇道】

 

<Act.5 『騒乱の火種』  最終話 『暁隊と呼ばれる部隊』>

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

本日の書類整理に目処がついたので、思わず一息をこぼす

肩を回しながら時計に目をやれば既に深夜の2時

はぁ……これで明日は魔物の殲滅戦に参加なんだから気が滅入る

僕は書類をファイルして引き出しに入れると、席から立ち上がりちょっと一伸び

 

「入っていいよ、オレルドさん。まだ起きてるから」

 

ドアの向こうの気配を感じていた

僕の一声が聞こえたようで、ドアは静かに開かれる

ドアの向こうから現れたのは僕の部下のオレルドさん

30代手前で金髪の髪に二枚目の顔立ち

警備隊に所属する女性スタッフからは人気はあるらしく、色恋沙汰の噂が絶えない人だ

 

「さすがは隊長。俺がいるのがわかりましたか」

「口上はいいよ。それで、結果はどうだったかな?」

 

僕は伸びを終えて一言を述べると、オレルドさんはドアを閉めて僕の方へと近寄る

その真剣な緑瞳はいつも飄々としているオレルドさんらしくないもの

なるほど。情報は掴んだわけだ……

僕も思考を仕事へと切り替えながら席へ着く

 

「はっ。レイソンには数百の魔物が滞在していました。中でも人語を喋る上級種を数体確認しています

 連中の話では上級種が群れのリーダーとなり、幾つもの群れが集まっているそうです」

「なるほど。数は数だけれども、組織立っているわけか……」

 

レイソン襲撃事件

その報がカノンに伝わったのは早朝のことだった

生き残りも少なく、また状況も掴めないままで警備隊内部は混乱状態に近かった

それでも元々魔物討伐隊の案もあったため、総隊長の手腕によって昼前には落ち着きを取り戻せていた

さて、そこで僕が襲撃事件について予想出来たのは2つ

1つは魔物が群れたため常駐する警備隊では防ぎ切れず、壊滅となったパターン

生き残った村人の話では大勢の魔物が攻め込んできた、という情報しか得られなかった

ゆえにこっちの方が可能性は高いと思っていたけれど、僕の予想は外れたみたいだ

もう1つの魔族等の優秀な魔者が手引きをして起こした攻撃、の方が正解のようだ

 

「また俺が諜報している時に数名が先走って攻撃を仕掛けていたみたいでした」

「攻撃? 誰かは見えた?」

「いえ、遠目でしたので……ただ白髪の少女が現れ、返り討ちにあっていた人とともに姿を消したのは確認出来ました」

「ふぅ……また白髪の少女、か」

 

いったい誰がレイソンにいる魔物達に攻撃を仕掛けたのか……

まったく予想がつかないが、魔物達を刺激してしまったのは間違いない

これは明日警備隊も出動する予定だけど、向こうも動くかもしれないな……

そこまで考えたところでオレルドさんから出た“白髪の少女”の単語に頭が痛くなりそうだった

今月に入ってから白髪の少女が事件に関与している目撃情報が多数出ている

しかし、その実態はまだ掴めておらず、警備隊内部では“白き美天使ホワイト・エンジェル”なんて通称が出始めているぐらいだ

まったく、本当にどこにでも現われるな……

 

「隊長。敵は相当の数と上級種がいる。もし正面衝突ともなれば……ヤバイかもしんないスよ」

「わかってるよ。でも、僕には僕の出来る範囲でしか出来ないからね」

 

オレルドさんの言いたいことはよくわかる

僕も今の情報を聞いたのなら明日の出動は見合わせて、まずは計画を練る必要があると思う

しかし、残念なことに僕にはそんな権力はまだないのだ

僕の部隊はカノン警備隊の中でも異端者を集めたような異例の部隊

ま、14歳の僕が隊長を務めるだけにこんなことになったんだろうけど……

部隊名は“忘却の暁隊デイ・ブレイク

もっともこれは僕の考案した部隊名で、実際は暁隊と呼ばれている

裏ではお忘れ部隊とバカにされているみたいだけどね……

つまり、そんな部隊の隊長が意見を出したところで、花形部隊である駿馬隊には聞き入れてもらえないってこと

それはオレルドさんもわかっているからこそ、口を噤むしかなかった

 

「ま、大丈夫。僕に権力はないけど、僕達には力がある。ぶっつけ本番でうまいことするよ」

「……そう、だな。隊長、また一つよろしく頼んます」

「こちらこそ、よろしくね」

 

僕達暁隊は様々な任務を今年、一緒にこなしてきた

だからこの部隊内では僕のことを14歳だといってバカにする人はいない

曲者だらけだけど、皆とてもいい人達だったのが幸いしたかな

僕はオレルドさんの小さな会釈に笑みを浮かべ、口を開く

 

「それじゃ、僕等も休もうか。明日は戦闘になるのは確実だろうからね」

「あの、隊長……“白銀の逆十字アンチ・クロス”の件、どうなりました?」

 

明日、暁隊も魔物の討伐に参加することになっている

とは言っても、暁隊は総勢で8名

内、戦闘を行えそうなのは僕やオレルドさんを含む5名のみ

基本は雑用や少数で行える任務が主となるだろう

まぁ、誰もあてにしていないので勝手に動き回り易いから都合がいいんだけどさ

 

「その件はマーチスさんに任せてるよ。現状、進捗は変わらないかな」

「そうですか……」

 

白銀の逆十字アンチ・クロス

それは先日起こったマーブル遺跡における事件が起因する

マーブル遺跡で無断で採掘を行っていた男――ボルゾイ

そいつがまさか“白銀の逆十字アンチ・クロス”の科学者とは、大きな事件にぶつかったものだと思うよ

とはいえ相手は世界を股にかける巨大な闇組織だ

地方の一、警備隊が調べるにしてもとてもまともにいくわけがない

ゆえに上層部は僕等にこの仕事を回した

一見、大きな事件なので期待が込められているように見える嫌らしい考えを込めて、ね

だが、それは僕等にとっては好都合

どんな相手だろうがしっかりと調査し逮捕に繋げてみせる

初めて舞い込んだ大仕事

気にならないはずはない

 

「大丈夫。まずはマーチスさんの調べが終わってから嫌というほど動いてもらうから、心配しなくていいよ」

「あははっ。ま、俺は程々に頼みますよ」

「ダメ。オレルドさんのことあてにさせてもらいますよ」

「こりゃ参ったな」

 

この部隊内で僕のことを一番よく理解してくれているのはこのオレルドさんだろう

年上としての気の遣い方、そして僕の無理加減をいつも気にしてくれる

……僕は覚えていないのだけれど、父親というものがいればこんな感じなのかもしれない

僕の母はとてもパワフルだから、そんなこと気にならないぐらいに充実はしてるんだけどね

 

「それじゃね、オレルドさん。明日はよろしく頼みますよ」

 

 

 

 

 

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