【覇道】

 

<Act.5 『騒乱の火種』  第0話 『巨猿の怒り』>

 

 

 

 

 

「ぅ、ぁ……が…………」

 

ワシの手で頭を掴まれた人間は苦鳴の叫びがあげる

まぁ、ワシの怪力によって頭を締め付けられているので半分、白目を剥いている状態だ

既に暴れる抵抗もなくなり、後はこのまま頭を握り潰すだけだ

 

「くそっ! なんなんだてめぇはっ!!」

 

もう一人の人間はワシに向かい剣を構えたまま絶叫する

その顔は青白くなっており、ワシに恐怖を感じていることが如実にわかる

見下ろす程度の小さな人間

そんなちっぽけな剣一つ持っていたところで、怖くもなんともないわ

 

「人間風情が、調子にのるなっ!!」

「ァガ――」

 

右手に掴む頭を握り潰すと脳漿と血液が飛び散る

そして落ちる体

その光景を見て人間は怒気が失せ、顔色から生気が消える

ワシは一歩を踏み込み、人間が反応する前に左拳打を打ち込んだ

 

「ァブ――」

 

苦鳴だけをその場に置き去りにして人間は宙を舞って吹き飛ぶ

真っ直ぐに飛んだ先には幹があり、背中から人間は打ち付けられた

瞬間、骨と足が背中側へと曲がり、人間は白目を向いて血を吐き絶命する

 

「ふんっ。雑魚が……」

 

手応えのないクズを一瞥し、俺は今一度、花畑へと目を向けた

白く綺麗な花が咲き乱れていた場所は、無残にも人間の足跡と千切れた葉っぱしかない

あのワシのお気に入りの場所をこんな姿にしくさって…………人間ごときがっ!!

苛立ちをぶつけるところがなく、顔が熱くなった

人間がたまにこの花を摘んでいくことは知っている

何かに使っているのかもしれない

そう、だからある程度ならば見逃していた

だが、これはどうあっても許すことはできん!

 

「ボス!」

 

不意に声が聞こえた

聞き慣れた少し高い声

ワシの頭脳とも呼べる参謀――ポニエルの声だ

振り返れば茶色の毛並をした猿がこちらへと駆け寄ってくる

体には紫の布を巻いて服のようにしており、頭には人間のフードと呼ばれる帽子を被っている

相変わらずの変な格好だ

 

「聞きましたよ。あ〜ぁ……こりゃ酷い」

 

ポニエルは凄惨な花畑を見て肩を落とす

ま、こいつは花なんかに興味はねぇだろうが、ワシの前だ

建前ってものも必要だろう

ワシの一味の中で花を大切にする奴なんか指で数えるほどしかいねぇ

 

「おい。追跡の情報は聞いてるだろ?」

「はい。サドムラとバロウが数匹連れて追ってます。一応、用心としてボイズも出しました」

「よーし。いい判断だ」

 

ポニエルは狡賢い

そう、その知能をワシは評価して参謀を任せている

サドムラとバロウなら足が速く、突進力もある

追跡には最適だ

ボイズで空中からの追跡もつければ人間2匹、逃がすことはねぇだろう

ワシは高まり出す心を抑えず、寝床へと足を向ける

 

「ポニエル! ゲアリとチダンへ命令出しとけ。レイソンを占拠しろ、ってよ」

「えぇっ!? レ、レイソンて人間の村ですよっ!?」

 

ワシの指示に後ろで腰を抜かす勢いで驚いているポニエルが目に浮かぶ

ワシは今まで別に人間の集落に興味を持ったことはない

そんなことよりこの大森メロウスノーの王にワシは惹かれた

人間は少数ならばさして攻撃はしてこない

だが、集落を襲うと必ず数倍の数で攻め込んでくる

その流れをワシはこの森で見ている

今はブリジスと戦力が拮抗している状態だ

人間など相手にしていてはブリジスにやられるかもしれねぇ

だが、逆にブリジスとやり合っても勝敗はどうなるかこのままじゃわからねぇ

なら、人間をブッ潰して数を増やし、土地を増やせばいい

だからこそワシはこの力を磨き続けてきたんだ

今なら人間の数百匹、ワシだけでも十分だ

 

「集落を手に入れたら拠点をそこへ移すぞ。人間どもから全てを奪ってやる」

「……ア、アイサー! すぐにゲアリ様とチダン様へ連絡します!」

 

ワシが本気であることをようやく理解したのか、ポニエルはすぐに駆け出して行った

ゲアリとチダンはワシの一味でも上から4番と5番の実力を持つ

チンケな集落の一つ位ならすぐに落とせる

ワシは数を集めた

それも、精強な連中も大勢いる

その数――1200匹

 

「人間から数の多さをとれば、勝ち目は――ねぇだろうよ」

 

 

 

 

 

 

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