【覇道】

 

<Act.4 『実技試験』  第3話 『乱闘事件』>

 

 

 

 

 

「――――行くわよ」

 

死刑を宣告する

そのつもりで開始の合図として静謐な一言を告げた

俺は両手の片手剣を構え、瞬時に鋼を標的として駆ける

鋼も俺の視線を感じてすぐに刀を構え、俺が間合いに踏み込むのを待った

――もらった

 

「――“軍神の光縛鎖バイド・ケプチャ”ッ!」

 

間合いには踏み込まず、間合いの外で足を止めて剣の切っ先を突き出す

剣の切っ先には光の球が生み出され、俺の詞を合図に光の触手が鋼に向かって伸び出した

光の触手による捕縛魔法

かわし切るにしてもそれなりに時間をとられることとなる

奇妙な小回りを会得している以上、近接戦より魔法で時間を得ることを狙いとした

そして、この空いた時間で大物――――六道を仕留める

 

「――“軍神の光縛鎖バイド・ケプチャ”ッ!」

 

逃げる鋼から視線を外し、俺は剣の切っ先を一つ六道に向ける

そして鋼と同じように光の球から触手が伸び、六道へと襲い掛かった

しかし、こんなもの猫だまし程度にしかならないだろうと踏んでいる

俺は光の触手に続くようにして六道へと駆ける

 

「はっはっは! 俺様にこの程度の魔法は――効かん!」

 

六道は光の触手を待ち構え、そして間合いに入り込むと――棍を振るった

振り上げて、振り下げて、そして旋回させる

回転する棍の威力で光の触手は四散し、光の粒子と成り果てた

……ある程度の大きさが残っていればまたくっつくのだが、あそこまで細かくされたら無理だな

俺は六道が触手を散らした直後の隙をつくように間合いへと踏み込んだ

 

「甘い――ぜっ!」

 

六道は既に棍を突く構えをとっており、俺に向けて棍を放つ

しかし、俺もそれは読んでいたためすかさず宙に跳んで突きをかわした

そして次の一撃に備えて俺は下からの攻撃に対して剣を振り下ろす

 

――“跳斬ちょうざん――

 

「っぅ!」

 

下からは突き出したはずの棍が跳ね上がるようにして俺に迫った

だが、俺も剣を振り下ろしていたので棍を下へと跳ね除ける

目前を跳ぶ俺を六道は見る

俺も六道を見ていた

互いの視線は交差し、六道は今の一撃を防がれたことで――――笑みを浮かべていた

 

「やるねぇっ!!」

 

六道は叩き落された棍をそのまま床へと突き出し、棍を利用して俺の方へと跳び上がった

俺は左手の剣の柄を離し、迫る六道へと掌を翳す

 

「――“邪を貫く光槍デリ・シルバ”ッ!」

 

掌から放たれる光の槍

かわす術はないかと思えば、六道は俺の一撃を読んでいたかのように足を振り上げた

その足の振り上げに合わせて手の力で自らの体を更に上へと押し上げる

足から空に向けて跳び、棍を手放す六道

俺の放った光の槍は誰もいない空間を飛んでいくだけだった

視線をすぐに上へと向ければ六道の姿

意外にも体勢は崩していない

咄嗟の対応ではなく、俺の攻撃を予測していての動きだった、ということか

俺は右手に握る剣の柄を強く握り締め、振り上げる瞬間を見計らう

 

「ぅぅぅぅぅ――――」

 

長い

六道は滞空時間が長く、俺はもう床に足が着く

いや、それが狙いか

息を吸い込む六道が何かしようとするのはわかる

何かを放つタイミング

つまり、俺が着地した瞬間で身動きがとれない状態を狙っている

だが、それならば打つ手は――ある

 

「――――っぶはっ!!」

 

六道が息を力強く吐き出すと、炎の球が放たれた

床をブチ抜くだけの威力は十分にあるだろうとわかる大きさ

だが、俺も左手に魔力を集めてある

炎の球が迫り、俺に直撃する前に左手を振るう

 

「――“女神の魔祓う掌ユー・イレイザー

 

気負う必要はない

魔力で覆った掌で炎の球をはたき飛ばす

一瞥して鋼の位置を見極め、そこを狙って跳ね返した

光の触手をかわし切った鋼は油断しており、火球に気がついた時には――――

 

「ぎゃ――――」

 

鋼の途切れた悲鳴

そして鳴り響く爆音

広がる爆煙

だが、俺の視線は一切六道から外れることはない

右手に構える剣を薙ぐタイミングを見計らうのみ

僅かに引き攣る六道の頬が、これはかわせないと教えてくれる

 

「ッチ!」

 

舌打ちをしてその場で旋回する六道

その程度のことで俺はタイミングを見誤ったりしない

そして――斬る覚悟も出来ている

 

ビュッ――――――ギッ!

 

剣を薙ぐ

六道の足へと迫る一撃

それを六道は旋回した勢いで足を蹴り出し、刃を――蹴り返した

剣を握る右手に返って来るのは衝撃という名の振動

――しまった! 靴に仕込が!

剣を返されたことで体勢を崩す俺

そんな俺の肩にもう一方の足を乗せ、六道は蹴った

 

「やるじゃん♪」

 

更に俺は体勢を崩し、六道は俺から距離を置いて着地する

俺はバック転へと切り替えて体勢を立て直し、再び六道と向かい合った

その頃には六道は棍を拾い上げており、元の状態へと戻ってしまう

 

「お」

「……美凪」

 

六道が驚きの顔で俺の後ろを見る

何かと思えば隣に現れたのは美凪だった

爆発に紛れて一度、俺と合流しに来たのだろうか?

美凪の姿を見るに怪我とかはなさそうで、ほっと心の中で安堵する

 

「まずいです……警備隊が来てます」

「え゛」

 

小声で俺に教えてくれる情報はとってもヤバイものだった

レストランの入り口を見れば確かにあの嫌な制服が目に入る

これは――やばい!

 

「――逃げるよ!」

 

俺は美凪の手を掴み、窓に向かって駆け出す

だが、そのまま見逃してくるほど六道は甘くはないだろう

六道は俺達の動きに合わせて動き出していた

 

「無駄無駄♪ ここまでしちゃったら逃げようはないよ?」

 

俺が魔法でもブッ放そうかと考えている時に美凪が手を強く握る

美凪の方を見ると自信に満ちた顔を浮かべ、右手の親指と人差し指で輪を作る

そして口元へと運び、息を吹いた

 

「――“泡珠の幻想光ライティール・シャボン”」

 

すると輪の反対側から次々と光の泡のような球が溢れていく

聞いたことのない魔法だが、美凪がこれをどう使うかは想像出来た

その破壊力を考えるに――けっこうとんでもないことするよな

六道もその幻想的とさえ思える光景を前にして、危機を察したか反対側へと駆け出していた

 

「――“祈りの光柱ティール・スン”」

 

美凪の詞の直後、光の泡達は閃光を放ち、上下に光を伸ばして行く

そのあまりの量に眩い光は俺達の姿を掻き消しているだろう

こちらからも光の向こう側はどうなっているのかわからない

今がまさに好機!

美凪の魔法能力の高さに驚きつつも、俺は美凪の手を引いて窓へと迫る

 

「――祐っ。どうするつもりなのですか?」

「こう――するんだよっ!」

 

俺は美凪の手を強く引っ張り、美凪を抱きかかえる

そしてそのまま閉められている窓を蹴破り、外へと飛び出した

もちろん、ガラスが割れないように窓の縁を蹴って開けている

 

「――“祈りの光柱ティール・スン”」

 

足の下に光の球を生み出し、光の柱を伸ばす

祈りの光柱ティール・スン”は物理的効果を持つため、乗ることも可能なわけだ

形成された光の柱に乗り、ゆっくりと柱は下降していく

 

「……こんな使い方もあるんですね」

「まぁ、俺ぐらいじゃないか……こんな変な使い方してるの」

 

儀式用の魔法を攻撃魔法に転換されたとはいえ、これは祈りの光なわけだからな

足で上に乗ろうなどと思う人はそういないだろう

……ま、便利なんだからどう思われてもいいけど

運がいいことにギルドの前には警備隊の姿はなかった

喧嘩騒動ってことで数名しか来ていないのかもしれない

地面に降りると同時に美凪も降ろし、俺達は駆け出す

 

「美凪、行くぞ!」

 

俺の言葉に美凪は頷き、俺達は逃げるように――というか、逃げ出した

周囲にはそれ程人気はなかったとはいえ、あまり目立つと後々厄介なことになるかもしれない

 

「人気のない道を選ぼう。美凪、道案内頼めるか?」

「…………はい。お任せください」

 

俺の言葉に美凪は頷き、ある路地を指差す

少し美凪の目は怪しく光ったような気がしないでもないが、ここは美凪を信じるしかない

俺にはまだそんな裏道に詳しくなるほどこの街の地理勘はない

息を切らせながらも一生懸命走る美凪に感謝しつつ、俺達は少し薄暗い路地へと入り込んだ

 

「はぁ……朝っぱらから嫌な目にあったな」

 

 

 

 

「うわぁ……凄い人数だな」

 

連れて来られた訓練場には人が溢れ返っていた

美凪の話によると学年合同試験、ってことなので2年生の全員がここに集まっているということになる

試合は6箇所で同時進行で行われ、順次に決められた順番で試験を行っていくらしい

コートはA〜Fまで……ま、最初の戦闘実習の時と同じ感覚で問題なさそうだ

 

「しかし、完全に遅刻したと思った……」

「……順番が早くなくてよかったです」

 

朝の六道との一件のせいで遅刻は確定だった

――が、今日は授業ではなく試験

自分の順番までは自由に過ごしていいらしいので、遅れてもそれ程目立たなかった

まぁ、石橋先生には一言注意は受けはしたが……気は少し楽かな

 

「……祐。どこか試合でも見ますか?」

「えっと、今は誰と誰がしてるんだ……」

「ぁ……」

 

美凪は本日の試合の予定表を持っているので、隣から覗かせて貰う

ふむ。まぁ、遅刻したとはいえそんなに遅れたわけじゃないから今は第2試合ぐらいだろうか?

それぞれのコートにいる名前を見るが、特別見覚えのある奴は…………いた

 

「……今なら斉藤さんの試合は見れそうですね」

「…………まぁ、あんな奴だけど見に行ってみるか」

 

美凪も気づいたのか、奴の名前を口にする

正直、斉藤はアホなので関わりたくない、ってのが本音だ

試合も別に見たいわけではない

が、暇なので見に行ってやってもいいだろう

……あの折原と行動を共にしているのだから、侮れないかもしれないしな

 

「斉藤はCコートか……ん? 美凪、大丈夫か?」

「……え?」

 

Cコートってどこだ

そう思って周囲を見渡そうと思った時、美凪の顔が少し赤いことに気づく

もしかして寒い中走らせたので風邪でもひいてしまっただろうか?

俺の心配の声に美凪は驚いてか、気の抜けた声を漏らした

 

「顔、少し赤いけど……」

「………………ぽっ」

「……大丈夫、かな。辛くなったらすぐに言えよ」

 

本人は少しふざけているが、俺は額に手を当てて熱さを確かめる

……特別熱くはないので、平熱のようだ

試験の日に悪いことしたよな……

具合がもし悪くなったら全力で治してあげよう

そう思いつつ美凪に一言注意をしておく

……美凪ってなんか無理しそうなタイプに見えるからな

 

「……祐。Cコートはこっちです」

「おう」

 

美凪は手を繋ぎ、俺を引っ張ってくれる

徐々に人波も増え出してコートに近づくと人で埋まっている程だ

狭い中を潜り抜け、なんとか見える位置まで前に進んだ

そこで見えたのはコートの中で対峙する2人――ではなく、3人

灰色の髪をしたアホ――斉藤は2つの人影と対峙していた

1つは学生服を纏った女生徒

金色の長い髪を靡かせ、武器も持たずに佇んでいる

勝気としか思えないその鋭く青い瞳は斉藤を捉えて離さない

その女生徒の隣には銀色の金属で作られている人型の存在があった

箱を組み合わせているのか、妙にカクカクなためロボットだと一目でわかる

四角の箱を繋げて作られているようで、継ぎ目は多いが関節として曲げることが可能だということを如実に語っている

 

「斉藤。あんたの負けね」

 

女生徒から勝気の声が飛び出した

見た感じ、どうやら斉藤は追い込まれつつあるようだ

一方の斉藤は堂々と立ち尽くし、女生徒と向き合う

 

「まだまだだね。俺はもっと貴女の闘う姿が見たい。だから、頑張らせて貰うよ」

「ふんっ。相変わらずキザったらしい奴ね」

 

キザとは思わないがウザイと思うに彼女の意見に同意したい

斉藤はそんな言葉等まるで聞こえていないかのように無視して、彼女と向き合った

その両手に魔力が集まっていくのが目に見えてわかる

 

「美凪。斉藤の相手って誰なんだ?」

「……二年C組の柏崎かしわざき 三音みつねさんです。魔法研究会の副部長をしている方です」

 

予定表を見て答えてくれる美凪

魔法研究会、って単語で嫌なイメージが出てくるが、正直見ていてもいい印象はない

特に隣にあるロボットがあるため、余計に……な

俺は視線をコートへと戻し、2人の試合へと意識を傾けた

 

「じゃぁ、第2ラウンドと――洒落込もうか」

 

 

 

 

 

 

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