【覇道】

 

<Act.4 『実技試験』  第2話 『準備運動??』>

 

 

 

 

 

「え――」

 

目前に立ち塞がる六道の仲間の小太り男の側面目掛けて蹴りを放つ

怒りに任せたままとはいえ、一歩を踏み込み素早い回し蹴り

それがまさか空振るとは思わず、かわされた蹴りで思考が冷える

 

「ぼ、僕を攻撃したなぁ……」

 

なぜか動揺しながら喋る小太り男

俺の蹴りを一歩、後ろに下がって見事にかわしている

……こいつら、ただのチンピラってわけじゃなさそうだ

俺は思考を冷静にしつつ、状況の動きを目で追う

 

「っというわけで、デートを賭けた一戦ってことで――よろしくぅっ♪」

 

背後で歓喜の声で口火を切る六道

殺気ではないが、膨れ上がる剣気が奴が動くことを感じさせる

俺は隣の美凪と見つめ合い、それだけで互いの意思を伝えることが出来た

美凪と俺はそれぞれ反対の方へと駆け出し、俺はテーブルの上に飛び乗って反対側へと逃げる

 

「おぉっと。意外と大胆じゃん♪ ――俺と鋼は白い嬢ちゃん! 麻耶とサブローは黒い嬢ちゃんだ!」

 

突きを繰り出した六道の元には俺達はいない

背後で飛び交う指示は判断が早く、そして声がよく通っている

指揮をとるには適している声だ

俺の方へは六道と小太り男――鋼が近寄ってくる

美凪の方へは残りの2人が……こいつら瞬殺して美凪のもとへ急ごう

俺は手に魔力を込めつつ、近づく二人に対して構えをとる

 

「威勢がいいねぇ、お嬢ちゃん。2人きりになって、そのツンツンがなくなるところを見てみたいねぇ」

 

相変わらず気持ち悪いことを言っている六道

しかし、俺に棍の先を向けて佇む姿勢には隙がない

……予想以上の手練かもしれない

俺は認識だけは改めることにし、左拳を振り返りざまに振り抜く

 

――“女神の拳骨ユー・ゲンコ”――

 

拳の先から繰り出される光の拳

それは鋼と呼ばれた男の顔面へと飛来する

この距離でかわされることはないはずだ!

 

「ぬぅっ!」

 

しかし、男はまたも拳が当たる直前で急に動きが加速し、紙一重でかわす

反射神経とかの動きではない

あれは何らかの歩法の一種か!?

男の意外な小回りさに気をとられ、動きが止まっていた

背後より息を呑む声が聞こえる

俺は左手首に手を添えてブレスレッドにしてあった夢幻に魔力を込める

 

――ガッ!

 

繰り出される突きを俺は銀の棒ではたく

棍のように長い棒ではなく、剣程度の長さの棒

それを二つ生み出し、それぞれの手に構えた

突きを払われた六道だが、すぐに手元に棍を引き戻して再び構えをとっている

 

「ヒュ〜♪ どっから出したんだい、その武器」

「………………」

 

答えを返す必要はない

俺は六道を無視して向かい合う六道と背後の鋼に気を配る

っくそ……どうしたものか……

正直、六道の突きはさっきは防ぐことは出来たが、決して甘く見ることは出来ない

いまだに左手が少し痺れている……それ程の突きだった

急所にでも打ち込まれれば致命傷となってもおかしくない

だが、この鋼という男も……一発で倒せる程、甘くはないらしい

あの奇妙な小回りさえなければ…………

 

「待つのは性分じゃないんだ。こっちから行かせて――」

「せやっ!」

 

俺は突如、右手にあった棒を六道へと投げつける

少し踏み込もうとしたこともあり、六道はかわすよりも叩き落すを選んだ

よし!

俺はそこで六道を視線から外し、後ろへと振り返る

手に残された棒を両手で握り、瞬時に刀へと変化させながら詞を紡ぐ

 

「――“邪を貫く光槍デリ・シルバ”ッ!」

 

六道へと投げた棒には魔法を込めてあった

見えはしないが光の槍が六道へと牙を剥いてくれるはず

少なくとも、俺への攻撃はこの数秒――なくなる!

鋼へと向けて踏み込み、距離を縮める

棒が刀へ変化したことへの驚きと、背後の六道の光景に対する驚きで鋼は浮き足立っていた

しかし、距離が間近へと迫ると刀を構え、俺を睨む

互いに得物は――同じ!

 

ギィィィッ!!

 

左と右からの刃が交差する

打ち合う刀は激しい金属音を上げて刃を弾き合う

鋼は弾かれた刃の流れに逆らわずにそのまま峰を肩へと乗せて次の振り被りへと繋げた

一方の俺は体勢を崩すように刀を持つ手が後ろへと戻される――かに見える

 

――ドスッ!

 

左手を後ろへと弾かれたままにしつつ、俺はそのまま右足で鋼の左横腹に蹴りを打ち込む

上半身しか目が行っておらず、足元が死角になっていた

そこを狙っての一撃はやはり効いている

目が飛び出そうな程の驚きを鋼の顔は出しているが――――

 

「っ〜――――はぁぁっ!!」

 

鋼は痛みを堪え、そして体勢を崩さなかった

本当にただの雑魚ってわけじゃないのが面倒だ!

俺は蹴り足を地に戻すが避けるのは間に合わない

振り下ろされる刃を防ぐために俺は右手を掲げる

 

「盾よっ!」

 

右手に握っていた夢幻の一部が変化し、手を覆う程度の盾が形成される

そして振り下ろされる刃が盾に当たった瞬間――刀を払うように手を振り抜く

 

「ぬぇっ!?」

 

刀を払われて手から体勢を崩す鋼

俺は右手でよろめく鋼の服を掴み、身動きをとれないようにする

あの変な小回りをされてかわされでもすると、時間がかかるからな

俺は構えている左拳打の狙いを鋼の左頬へと定め――――

 

「はぁっ!!」

 

思いっきり打ち抜いた

体が少し吹き飛ぶように浮き、そのまま床を転がる鋼

俺はようやく一撃が決まったことに安堵しかけるが、すぐに後ろへと振り返った

 

――ビュゥッ!

 

左手を僅かに上げた

その脇下を瞬時に風が吹き抜ける

振り返った俺の目前に佇んでいるのは――――六道

 

「やってくれるねぇ〜。ちょっと危なかったじゃないか」

 

六道の服には傷一つなく、先程の攻撃が当たらなかったことを示していた

そして俺を睨む目には憎悪が混じり出している

……もしこれて捕まりでもしたら襲われそうな勢いだな

俺は男なんだけどな……

そんなことを思っている内に六道は棍を引き、再度構えをとった

 

「鋼に一撃入れるとは、学生さんにしては上出来だ。だけど、女の子のパンチ一つでおねんねする程、柔じゃないぜ」

「ぅ、ぁ……いたぁ……」

 

六道の言葉を合図にしたかのように鋼が立ち上がったようだ

後ろなので確認は出来ないが……

思いっきり殴ったんだけどな……肉がついてる分、効き難かったか?

俺はまた挟み撃ちになると面倒と考え、六道の方へと――踏み込んだ

 

ビュゥッ――

 

繰り出される一突き

正確で早く、そして鋭い

俺は迫る棍を身を捻ってかわし、六道の間合いへと踏み込んだ

確かに早い突きだ

だが、昨日のルイ・ダニアンの槍に比べれば速くはない!

刀を手に迫る俺を六道の目は確実に捉えつつ、棍を引き戻す

引きが――速い――――っ!

まだ六道へと斬りかかるには距離がある

しかし、六道の棍の先は俺の方へと向けられていた

 

「この距離は――無理でしょ♪」

 

笑顔で繰り出されるのは高速の突き

俺はそれを事前に――読んでいる!

六道には届かない間合いで力強く一歩を踏み込み、刀を振り上げる

力強く、棒を払い除けるだけの力を込めて!

刃が棒へと触れる

そのまま振り上げようとするが――――

 

――ガガッ――

 

なぜか刃が喰らいつけず、弾かれた

俺は驚くのも束の間、直後には腹部に強烈な一撃が打ち込まれた

 

「っぅ――“邪を貫く光槍デリ・シルバ”ッ」

 

後ろへと吹き飛ばされつつ、俺はすぐに左手で魔法を放つ

しかし六道は打ち込んだ直後も油断しておらず、すぐに大きく横へと跳ぶことで“邪を貫く光槍デリ・シルバ”をかわした

俺は床の上へと落ち、数回転がるが受身をとって起き上がる

俺に迫り来る六道と、様子を窺っている鋼

俺は手にある刀を再び2本の棒へと変化させる

 

「無駄だよぉ、っと♪」

 

六道はそのまま走り続け、一度小さく跳んでから大きく跳んだ

宙へと舞い上がる六道

しかし、その棍の先は常に俺の体を――狙っている

 

「そぉやっ!!」

 

棍を振り上げて突きではなく、叩き落すように振り下ろしてきた

俺はそれを棒を×字にして受け止める

 

「っ!」

 

強烈な衝撃が両腕を襲う

軽々と振り下ろしたように見えたが、侮れない六道の膂力

先程、打たれた腹部へも痛みが走り、苦痛に顔が歪む

 

「――っ!?」

 

六道はその僅かに気が逸れたのを察するように棒を手放し、床に降りる

そして迅速な踏み込みで距離を縮め、右拳打が構えられていた

 

「――もらうよ♪」

「っん!」

 

放たれる拳打

俺はそれに肘を合わせ、腕でガードを作り防ぐ

腕に叩き込まれた拳打の衝撃は重く、そして体内に響く

こいつ! 相当体術も鍛えている!!

軽い性格だが、決して鍛錬なしには出せないだけの威力がこのパンチにはあった

俺は衝撃を逃すため後ろに跳び、六道と距離をとる

六道はあえて俺を追わず、落ちかけた棒を足で拾い上げていた

 

「どうだい? この強さに惚れてくれたかな?」

「……冗談キツ過ぎ」

 

余裕の六道の発言に俺は気を引き締めながら言葉を返す

これだけ強いナンパな奴も珍しい

俺は突然の苦境に驚きを覚えながらも、まだまだ余裕はある

問題なのはここがギルド内のレストランだということ

魔法を少しは使っているが、威力を抑え部屋を壊さないように配慮している

元々、魔法を織り交ぜて闘うのが俺の戦法だ

やり難いってのもあるうえに、相手の武術が秀でていてよりやり難い

 

「――だってさ、鋼」

「っ!」

 

しまった! 意識が六道へ集中し過ぎた!

横手にいる鋼は刀を構え直し、俺へと疾走を開始する

走る動きは確かに遅いが、俺はこいつの小回りを侮っていない

おそらく、間合いに入ってからのこいつの踏み込みは――――速い

俺は両手の棒を片手剣へと変化させ、自らも鋼へと踏み込んだ

 

「ぼ、僕に触らせてぇ!」

 

気持ち悪い謎の台詞を言いながら、間合いに入った瞬間の踏み込みが加速する

分り易い振り下ろしの一刀を俺は横へと身を動かすことでかわす

 

――“跳斬ちょうざん――

 

「っぁ!?」

 

しかし、振り下ろした刃がなぜか俺の左腕を掠めた

視界の隅に見えた銀光で気づき、咄嗟に飛び退いたので掠める程度で済んだ

俺は意味がわからず、鋼の全体を見ると鋼の足が僅かに上がっており、刃は上向きになっていた

……まさか、峰を一瞬で返して刀を蹴り上げた……?

振り下ろしをかわした時点で俺は視線を外していた

ゆえに確証はないが、それ意外には考えられない

 

「さてさて、これだけ暴れてくれたんだ。そろそろ終わりにしようか」

 

六道と鋼が俺の方へと歩み寄る

……ヤバイかもしれない

室内ということである程度、抑えていたが手加減出来る相手ではなさそうだ

俺は弁償という覚悟を心に決め、力強く剣を握り締める

 

「そうね、終わりにしましょう……ここからは、本気で行くわ」

 

 

 

 

 

 

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