【覇道】
<Act.4 『実技試験』 第0話 『嬉しき日々の始まり』>
「………………できた」
思わず完成品を見て、私は心の声を漏らしてしまいました
そして時間を確認するために時計を見ます
時間は朝の4時
まだ寮の皆さんは眠っている時間です
もちろん…………
「…………祐も」
声に出して言うと慣れなくて、そして恥ずかしくて頬が熱くなります
昨夜、傍に置いてくれると言って下さった祐
しかも、名前を祐、って呼んでいいなんて…………凄く、大胆な人でした
嬉しくて、でも恥ずかしくて戸惑いも覚えますけど――――本当に嬉しくて、こんなに浮かれたのはいつ以来だったでしょう
「…………ううん。考えない」
思い出すのは悲しい過去
私は頭を振って思考を止めると、目の前のお弁当を見て笑みをこぼします
祐は……喜んでくれるでしょうか
別に頼まれてもいないお弁当
ただ、私が作って上げたかった
学食でいつもお昼を済ませているのは知っています
夢で視ていますから……
「あら? 美凪ちゃん?」
「あ……」
お弁当を包んだところで秋子さんが現れました
最近の朝練を始めるのでしょうか
いつもの私服ではなく、胴着を着ていました
見慣れない姿にちょっと新鮮さを覚えます
「あらあら♪」
「あ、いえ……これは、その……」
お弁当の包みを見られて笑みを見せる秋子さん
私はどうしたらいいのかわからず、しどろもどろになっていた
そんな中、秋子さんは満面の笑みを浮かべて言ってくれた
「頑張ってね、美凪ちゃん。喜んでくれるといいわね」
「あ…………はい」
優しい母のような対応に落ち着きを取り戻せた
娘の名雪さんが祐のことを好きなのは知っている
でも、だからと言って遠慮をする必要はない
だって祐と名雪さんは別に将来を誓い合ったわけではないのだから
それでも、優しく言ってくれる秋子さんの言葉は嬉しかった
「それじゃ、私は道場に行きますね。キッチンは好きに使ってもらえばいいから」
そう言い残して返事をする暇もなく秋子さんは立ち去って行った
さすがに今日が実技試験当日
名雪さんの訓練の仕上げに入るのでしょう
1週間近くも秋子さんの朝練の稽古をつけてもらった名雪さん
その実力はどこまで上がるのでしょう……元々、素質があるだけに心配です
祐が負けるとも思えませんが……名雪さんについて知らないことが多過ぎる、というのが心配です
「4時……」
時計を見て時間を確認
ふと、祐が何をしているのか、を考えてみました
ぐっすりとベッドでレンちゃんと寝ているはず
祐の寝顔…………
思わず想像すると見てみたい、という欲求が高まります
「…………ゴーです」
私はお弁当の包みを鞄に入れてキッチンを後にします
そして皆さんを起こさないようにゆっくりと階段を登り、祐の部屋へと向かいました
心の内は今までにないほど高まり、これからの日々の楽しさを私に感じさせます
期待に膨らむ胸は私の顔に笑みを浮かべる程でした
「……今日から楽しい毎日です」
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