【覇道】

 

<Act.3 『盗賊団“紅桜”』  最終話 『影に潜む陰謀』>

 

 

 

 

 

「………………」

 

ホテルのテラスの前から夜の街を見下ろす

輝く闇夜の光はそれぞれどんな想いをのせて灯りを灯し、動いて行くのか……

いつからそんなセンチメンタルになったんだ、俺は

そんな馬鹿げた感想を抱く自分を笑い、俺はワイングラスを傾ける

 

「やぁ、浩之」

「……雅史」

 

もう皆は寝静まっている

そう思っていた夜の晩酌に現れたのは雅史だった

相変わらずのにこやかな笑顔を湛え、俺の隣に並ぶ

 

「今日はお疲れ様」

「あぁ、おまえもな」

 

今日はあの盗賊団“紅桜”を壊滅させたのだ

皆の頑張りがなければ実現不可能だっただろう

今までで一番の功績だけあって、記者からのインタビューも多かった

俺達の知名度は更に上がったことだろう

 

「どうしたんだい? 海賊の件、気になってるの?」

「………………まぁな」

 

海賊

盗賊団“紅桜”捕縛後、警備隊の捜査が入り事件は解決したかに思えた

警備隊からの細かい事情聴取を終えれば2100万という賞金額をギルドより受け取った

ま、雅史が倒したフランケの分も認知されたので1600万追加で貰えた

……ま、それで一件落着かに思えたが、雅史は盗賊を捕まえた際に話を聞いたらしい

するとあの天狗の少女をとある海賊団に売り渡す予定だったという

……いや、売り渡すというよりも交換条件だったらしい

あの北端の灯台にどうやって“紅桜”が現れたのか

氷河の海を越えて乗り込んだ、という

ゆえに目撃情報もなく完全な盲点

ここまで被害を出す程に至ったわけだ

それを裏で手を引いていたのか海賊

魚人海賊団アーロン一味

世界を股にかける海賊団

船長のアーロンの賞金額は――――3000万

奴の手口のひとつを潰したんだ

報復等を含め、警戒しておく必要があるだろう……

 

「海賊達の出方を見る意味でも、もうしばらくはカノンに滞在だな」

「…………で、本当は悠ちゃんのこと?」

「…………わかってんならさっさと言えよ」

 

海賊の件は確かに心配だが、俺はそれ程心配なしていない

3000万の大物が向こうから来てくれるなら簡単な話だ

それを打ち破るだけの実力は今の俺達にある、と確信している

警戒は怠らないようにしないといけないがな……

だが、俺が憂鬱なのはあの相沢の件だ

最後は幻術? みたいな状態で慌ててお別れだった

いまだにあれは夢だったんじゃねーか? なんて思う程……

不思議な奴だった、と言えばそれまでなのかもしれない

 

「最後の幻術。あれは相当な技だったね……個人にかけるんじゃなくて、その場にいる全員に見せたんだから」

 

真剣な眼差しで雅史は語る

幻術ってのは基本は相手の脳に直接干渉し、その人物にだけ見せる幻が基本

レベルが上がれば蜃気楼のようにその現象を見せる程になるというが、相当な魔法使いでもなければ無理だろう

あの幻術の規模は更にデカかった

あの地域一帯にかけて幻を発生させ、遠くにいた警備隊からも確認されている

相沢がそんな魔法を発動したようには見えなかったが……

 

「浩之は彼女のこと、どう思うんだい?」

「んぁ? どうしたんだ、いきなり……」

 

突然の質問に俺は驚いた

しかも、その質問内容の意味を図りかねる

俺の疑問の視線を受け、雅史は少し逡巡してから口を開いた

 

「僕は彼女のこと、少し警戒した方がいいんじゃないか、って思うよ。わからない部分が多過ぎ――っぁた」

 

俺は変なことを言う雅史の頭を簡単に叩く

雅史は叩かれた部分を摩りながら俺の方へと振り返った

 

「バーカ。相沢の目、ありゃ大丈夫だよ。あいつは真っ直ぐだ。信じてやろうぜ」

「…………浩之がそう言うなら、そうするよ」

 

俺の言葉を受けて雅史もいつもの微笑を見せてくれた

雅史はいつも俺達の安全を考えて周囲を警戒してくれる

だからこそ、俺達は安全に傭兵が出来てるのかもな

雅史に対して注意はするが、それは必要なこと

だから俺は雅史を非難したりはしない

 

「そういえば、次の標的は決めてあるの?」

「ん? んー……今、カノンじゃ賞金首はロクなのいねぇーみたいでな」

 

帰りにギルドには寄ったが、ロクな賞金首が周辺にいる様子がなかった

ここ半月程で大物の見合う連中は捕縛されていったらしい

ま、残ってるとすれば魔物の賞金首……あんまり得意ではないが、練習の意味でもしてみるのもいいかもな

だが、通常の依頼をこなそうか、とも俺は考えている

正直、今は迷っている、ってのが答えだな

 

「明日、皆で決めよう。案はいくつかあるんだ」

「そっか」

 

俺の言葉に雅史は笑みを見せ、そう返事をくれた

雅史のこの些細な気遣いにはとても感謝している

ま、唯一チームでの男同士だ

仲良くやれていて嬉しく思う

 

「悠ちゃんとまた逢えるかな?」

 

こちらへと振り向いて尋ねる雅史

俺はその質問を受け、予感めいたものを感じながらこう言い返した

 

「あぁ。あいつとはまた、逢える気がするぜ」

 

 

 

 

 

戻る?