【覇道】
<Act.3 『盗賊団“紅桜”』 第1話 『盗賊団退治へ出発』>
「………………」
鏡に向かう自分を見て、言葉をなくす
白く長い髪は邪魔にならないようにポニーテールでまとめてある
どこからどう見ても女性にしか見えなかった
服装は白の防衣にズボンと軽装で準備
夢幻はブレスレッドにして腕につけてあるし、マントも羽織っており準備は万端だ
久々の集団戦……連携が鍵になってくる
しっかりと戦況を見極め、誰も死なないように気をつけないと……
「…………」
「お、レン。起きたか」
レンは黒い猫となって俺の肩の上に飛び乗った
まだ眠いらしく、目が半分しか開いていない
今日は久々に黒猫バージョンだ
いつもは家で秋子さんの手伝いとかをしてくれているらしい
学校にはさすがに連れて行けないので悪い思うが、レンもそれなりに楽しんでいるようだ
今日は久々に一緒に行動
レンの力が今日は必要になってくるだろうしな
「よし。行こう」
部屋を出て、静かに歩き1Fへと向かう
まだ朝の早い時間だ
起きていたとしても秋子さんぐらいだろう
俺はそう思いながらいつもは馬鹿のせいで喧しい寮の中を進む
1Fに着いた時、明りはあるのに人の気配は全くしなかった
予想と少し違い、驚くが……何も問題はない
俺はそのまま玄関へと向かい、静かにドアを開けると――
「あ……」
「ん? 相沢……か?」
外に出ると、そこにはなぜか北川の姿があった
手に竹刀
頬には汗
見るに素振りか何かで鍛錬していたようだった
化粧とかはしていないが、出掛ける準備をしているこの格好
いつもと違う雰囲気に北川も小首を傾げて俺を見た
「どこか行くのか? もうすぐ朝飯だぜ」
「あ、あぁ。ちょっと――……ん?」
北川にはどう言ったものか
そう考えている内に、微かに何かの声みたいなのが聞こえた
声が聞こえた方へと耳を澄ませば、それは水瀬道場の方向だった
「誰かいるのか?」
「……水瀬の秘密特訓だよ。打倒、相沢で燃えてるみたいだぞ」
「へぇ。あの名雪が……」
耳を澄ませば微かに聞こえる女性の声
名雪は朝はとても弱く、秋子さんも困っていると愚痴をこぼしているぐらいだった
それなのに早朝特訓とは……相手はさしずめ秋子さん、ってところか
水瀬流の師範代として娘の技に磨きをかけているのだろう
……今日の盗賊団のことで俺は頭がいっぱいだったが、テストの方も大変になりそうだな
しかし、これから向かう戦場とは違い、平和的な話に思わず口元が緩む
「本人は内緒にしておいてやってくれよ」
「あぁ。そうする」
友達思いな北川の台詞に微笑みながら相槌を返す
そのほのぼのした会話のおかげで妙な緊張感はとれていた
俺は意を決して北川に真剣な眼差しを向け、口を開く
「北川。俺は今日、大事な用があって出掛ける。夜遅くなるかもしれないけど、心配しないでくれ、って伝えておいてくれるか」
「夜遅くなるかも、って相沢……門限は20時だぞ?」
「頼む。北川……門限までには帰るつもりだから」
理由は言えない
それは俺の真摯な眼差しで北川も悟ったのだろう
だから何も言えず、言葉が出ない
困った表情を浮かべ、小さく唸り声を漏らす
だが、次の瞬間――いつもの笑みを見せてくれた
「わかったよ。こっちはうまいこと言っといてやる」
「! サンキュ、北川」
「貸し一つだらかな」
北川の返事に思わず顔が綻びた
こいつには本当に色々と世話になってばかりだ
今日、何も言わずに出掛けるのも気が引けていたが、これで心も軽くなった
頼りになる友を見て俺は笑顔が浮かぶ
「じゃぁな、北川。必ずカリは返すよ」
「あぁ。期待してるからな」
*
「お待たせしました」
雪の降る森を静かに駆け抜け、待ち合わせの橋へと到着する
途中、女性ということを強調するために軽く化粧と、髪飾りを頭につけてきた
今後、町で会った時とか俺という存在を誤魔化せるようにしておきたい
ま、藤田さん達に、って意味もあるが盗賊団の連中に対しても、な
橋の前には既に5名、全員が俺を待っていた
周囲に野営したような跡もあるので、待ち惚けにはなっていないはず
待ち合わせの時間に遅れたわけでもないしな
「よし。早速だけど、すぐに出発だ。行くぞ」
藤田さんの不敵な笑みを見せた直後、そう一声発して橋を渡り出す
その一声は大声はでなかったが、気合いが漲っている声だと感じさせた
心の底から気合いが湧き出てきそうな気持にさせてくれる
リーダーとしてとても素晴らしい素質を持っている、そう思わせた
「……歩きながらですけど、本日の作戦を説明させていただきます」
「はい。よろしくお願いします。姫川さん」
先頭を藤田さん
その後ろを前原さんと神岸さんで、俺と姫川さんがそれに続く
最後尾は佐藤さんが殿を務めている
相手にこちらの存在は気付かれていないだろうけど、油断をせずに行進をする
とてもプロ意識が高く、真剣に仕事に臨んでいることが窺えた
若いチームとは思えない強かさがこのチームにはある
名声が上がるのも当然のことだと頷けよう
「相手は北の灯台を根城にしており、灯台の周囲に野営の陣を設けています。木材で組んである陣ですので、防衛力が優れています
陣は灯台の周囲に4つ展開されており、雪で木材を覆っているため遠目からでは陣があるように見えません」
姫川さんの説明に驚く面が幾つもあった
まずは陣を設けていること
これには大人数で生活する盗賊団なのだから必要になってくることだろう
しかし、木材でしっかりと組み、雪で固め隠匿性を高める等、頭の切れる対応をとっている
やはりただの賊と言い括ることは出来そうもなさそうだ
2100万の賞金首 ルイ・ダニアンがまとめる盗賊団――“
決して侮ることは出来ない
「またギルドの情報と、陣の規模から推測するに盗賊団は130名前後と見ています
戦場が広い雪原のため、数が大きく戦局を左右すると考えると正面突破は得策ではない、と考えています」
「そうですね……」
地の利が使えない平野戦では数の影響力というのはことのほか大きい
広域魔法や、罠などを用いればまた変わってくるだろうが、こちらは俺を入れても6名
正面から闘うのは得策ではないだろう
それに仮に正面突破で敵を倒していったとしても、その実力を前にすればボスが逃げてしまう可能性の方が高い
ボスを逃がしては一時的に壊滅することはできても、また盗賊団を作り上げてくるだろう
一網打尽、というのが俺の狙いだ
「ですので、陽動作戦をとろうと思います。正面より敵に攻撃を仕掛け、敵の目を惹きつけている間に別働隊がルイ・ダニアンを捕まえる
相手は賊ですので、頭をとってしまえば烏合の衆となるはずですし、“
そう説明する姫川さん
確かに話の合理性はあるし、俺としても悪くない作戦だと思う
ただ、気になる点が一つだけあった
「その別働隊、ってのは誰になるのですか?」
人数が少ないのに部隊を分ける
まぁ、正面突破をしない以上は仕方のないことだろう
またそれを可能だと自負するからこその作戦だ
俺はこのチームの実力が測れない以上、そこを口出すすることはしない
だが、別働隊――ある意味、主力とも言える作戦の要だ
ここは誰に任せるつもりなのか
俺の問いかけに姫川さんは口を噤み、前方へと視線を向けた
「それなんだが、雅史と――相沢。おまえに頼みたい」
前方を向いたまま歩く藤田さんが、簡単にそう一言言ってくれた
ある意味、一番死の可能性が高いポディションとも言えるだろう
……いや、そんなこと俺が思うはずがない
そう藤田さんはわかっているからこそ、俺に任せてくれたのだろう
まだ一度しか会っていない間柄で、チームの命運を握るそのポディションを俺に任せてくれたのだ
その信頼、とても嬉しく思える
「謹んで承ります。信頼に応えれるように頑張ります」
「ははっ。んな堅い挨拶はいいよ。それに相沢を推したのは後ろにいる雅史だからさ」
そう言われて思わず後ろへと振り返る
そこには笑みを見せる佐藤さんがいるだけ
その読み切れない笑顔と、張り詰める空気
やはり相当の手練だというのを感じさせてくれる
「どうして、私を?」
「君はとても身のこなしが軽い。敵陣へ潜入するのだから身軽で、尚且つ冷静に物事が対処できる人物が適任だと思ったからさ
後は初めて一緒に闘うのに連携をとるのは難しいでしょ? だったら単独で動ける方が向いていると思ったんだよ」
俺の質問に佐藤さんは理論的な理由を幾つも挙げてくれた
だが、それも理解は出来るが納得できる説明ではなかった
どんな理由があろうとも、この別働隊に選ばれるには実力が必要だ
そして佐藤さんは俺の強さを感じ取っている
どこまで見透かされているのだろうか
そう一抹の不安を感じるが、今は気にするのはやめておこう
今は目の前のことに集中するべきだ
「ところで、肩にいる猫は……?」
「あ。この子は私の相棒なんです。戦闘が始まる前には待っててもらうので、心配しないでください」
「そっか。それならよかった」
俺の言葉に佐藤さんは笑顔を見せる
やはり連れていくのは不味かったみたいだな
……まぁ、潜入すると言うのに真っ白の風景で黒猫を連れていたら目立つしな
レンに悪いな、と目で言いつつ頭を撫でてやる
ふと、隣から注がれる視線に気づいた
「…………撫でます?」
「ひぇっ!? え、えぇ、いえ、別に。大丈夫ですよ」
じ〜っとレンのことを見ていた姫川さんに声をかけると、ビックリしたのか声が裏返っていた
慌てた様子を見せながらも、何事もなかったように装って正面へと向き直った
……意外と動物が大好きなのかもしれない
クールな印象が強いが、あくまで印象だけなのかもしれないな
「おい。もうすぐで森の終わりだ。敵が警備している可能性もある。周囲には気を配ってくれよ」
「「「「はいっ!」」」」
藤田さんの一声に皆も、そして俺も気合いの一声を返す
チームとしての統率力もバッチリだ
俺はまだ深くはこのチームことを知らない
だが、これだけは言える
今日、この時、この場面において俺は信頼のおける仲間を得ることが出来た、と
徐々に戦闘意識を高めながら、雪の降る森の中を歩み進めていった
「ふぅ…………よしっ」
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