【覇道】
<Act.3 『盗賊団“紅桜”』 第0話 『不思議少女』>
「………………」
待ち合わせのルベック森の小橋で、俺達はあの少女――相沢 悠が来るのを待っている
橋の手すりに身を預け、俺は小川の流れに視線を落としていた
ぼけーっとする……だが、心の奥のそわそわを解消出来ないでいた
珍しく緊張している……ま、チーム結成以来の大仕事なのだから当然かもしれない
「浩之ちゃん」
「あかり……」
テントの方から歩いて来たのはあかりだった
今日の大仕事を前にしてもいつもと変わらない笑顔を見せてくれる
……ま、本当はすっごい緊張しているんだろうけど、顔に出ていないだけだけどな
長年の付き合いなのだ
そのぐらいのことは自然とわかる
「雅史は戻ったのか?」
「ううん。まだだよ」
事前の偵察として雅史に状況の視察を頼んである
確かにまだ戻るにしては少し早い
ま、一面が雪原なのだ
ヘタに近づけばすぐに見つかるので、無理はするなと再三言ってある
無事に戻って来てくれるだろう
「あの子、来るかな」
「来るさ。あいつの目、真っ直ぐだったからな……」
隣に並んだあかり
一緒に小川を眺めながらふと、そう言葉を漏らした
その台詞で昨晩のホテルでの会合を思い出す
ビックリするほど純粋で、とても真っ直ぐな目をしていたのが印象的だった
まるで、こちらの心の隅々まで覗かれているような真摯な目
女神かと思う容姿にあの目をされちゃ、さすがにちょっと緊張したな
「ま、あかりが言ってた意味はわかったしな」
「もう、浩之ちゃん。もうそのことは言わないでよ」
ギルドに単身、情報を収集しにいったあかりが帰ってからのことを思い出す
とても混乱というか、慌ただしい様子で色々と喋りまくってたからな
そもそも、普通の宿をとるつもりがあかりの意見で高級ホテルに予定変更
ま、久々に贅沢する、ってのもいいと思ったのでOKしたんだけどな
立派なホテルで話をしないと、嘗められるかもしれない
そう結論として言ったあかりの台詞も今ならわかる
相沢 悠
とても学生とは思えない落ち着き、余裕、そして何よりも仕草や動き
俺が見ても只者ではないとわかるし、何より強いことが見て取れた
いったいどんな経験をしたらあんなスーパー学生が出来るのか、それはそれで気になる
「でも、今日って平日だから学校だよね? だいじょぶなのかな……」
「ま、色々あるんだろうぜ」
あかりは心配そうにそう言葉を漏らすが、俺は適当に相槌を打って流しておく
あの夜、帰り際に頼まれたことがあった
『私のこと、他言はしないでください。学校には秘密でしているので……』
人に言えない事情など誰にでも山ほどあるものだ
彼女がそう願うなら俺も協力しよう
なにも真面目に学生やってればいい、ってわけでもないだろう
ま、うちのチームには何名か真面目さんがいるのでこのことは言えないけどな
「先輩ーっ! 佐藤先輩、戻ってきましたよ〜!」
テントの方から大きな声が届いた
葵ちゃんの元気な一声は朝にはよく耳に響く
元気いっぱいだな、今日も
あの活力には御利益でもあるのか、俺もふつふつとやる気が湧いてくる
視線を向けると葵ちゃんの後ろには雅史がいた
少し引き締まった顔つきなのは有力な情報でも得られたからだろうか
「行くぞ、あかり」
「うんっ。浩之ちゃん」
戻る?