【覇道】

 

<Act.2 『遺跡に落とした忘れ物』  第9話 『臨時パーティー結成』>

 

 

 

 

 

「へぇ。北川は折原とか」

「あぁ。正直、気の抜けない相手だな」

 

食後のデザートということで、俺はまだ食堂に残っていた

この場に残っているのは俺と名雪と北川

そして長森さんと秋子さん

他の面子はそれぞれ自分の部屋に戻って行った

特に折原は斉藤と『対北川戦』に備えて作戦会議をしているらしい

 

「折原ってよくわかんないんだけど、実際強いのか?」

「…………多分」

「多分?」

 

前々から思っていた疑問をぶつけると、北川は逡巡した後に曖昧な返答を出した

その意味を図りかねたため、俺はオウム返しで聞き直してしまう

 

「折原君って授業でもあまり真面目じゃないから、成績はよくないんだけど……」

「魔物とかと闘った時とかは機敏に動くし、苦戦したところも見たことないんだよな」

 

名雪の補足で意味がようやくわかった

あいつはとにかく真面目ではない

それこそテストでも真面目にするか怪しい程だ

ゆえに成績は当てにならない

だが、実戦での動きを見るに相当の手練がある……が、どこまでのものかはわからない、ってわけか

 

「その辺はどうなんだ、長森さん?」

 

この中で折原とは一番古い付き合いになる長森さんへ話を振ってみる

長森さんは困ったように苦笑いを浮かべ、口を開いてくれた

 

「どうかな……本国でのことは浩平に口止めされてるから、私から何も言えないんだよ」

「そうなのか……意外にガードが堅いな」

 

長森さんから聞き出すのはさすがに可哀想なのでやめておく

にしても、口止めをしていたのは意外ではあった

馬鹿のベールをかぶってはいるが、実はかなり聡明な人物だったりして……

無理だ

折原が聡明な想像がどうしても出来ない

 

「よくわからない。だから気が抜けないんだよ」

「なるほど……別の意味で怖い相手だな」

 

俺の返答に北川は力強く、頷いた

何をするかわからない

どう闘うのかわからない

何を武器にして闘うのかわからない

それらはつまり――情報だ

相手の情報が不足している、というのは情報戦において敗北の証

俺の夢幻とてそういう事前の情報を撹乱させるとより実戦で有利になる

……ま、俺の場合は見せ試合をさせられたのでもうダメだろうけど

ずっと一緒にいて相手にそういう情報を見せない、というのはとても凄いこと

わざとか、偶然かは読み取れないけど……な

 

「名雪は祐一さんとなのよね」

「うん! うぅ〜、緊張するよぉ〜」

 

ホットミルクを飲みながらそわそわする名雪

なんか凄い意識されているので、段々気にしていなかったこっちまで緊張してきそうだ

そういえば名雪の実力とはどうなのだろう?

秋子さんの娘、ということは水瀬流も色々と身につけているんだろうし……となると、けっこう強いのか?

そこまで推測して名雪を見るが、どうもほんわかしたイメージがあって結びつかない

 

「秋子さん。名雪の腕前ってどのぐらいなんですか?」

「あぁー! 祐一ズルだよっ!」

「……俺の武器とか魔法とか知ってる方がズルじゃないか?」

「うぅ〜〜」

 

さり気なく話の流れに乗せてみたのだが、名雪に看破されてしまう

だが、それすらも正論っぽい感じで言い返して名雪を沈黙させた

というか、実際俺の情報はある程度漏れているのでこっちも少しは知りたいところだ

 

「強い、とだけ言っておこうかしら」

「強い、ですか……」

「お母さん! 私までプレッシャー感じちゃうよ〜」

「あらあら。そのつもりで言ったのよ」

 

妙にインパクトのある言い方だった

柔和な笑みではあったが、そう言い切った時の声色が僅かに違った

生徒に人気のある寮母から、道場の師範代の声色へと……

あの水瀬 時貞ときさだの娘……武術の才能があってもおかしくはない、ってことか

真剣に拗ねている名雪を見つめるが、やはりどーーしてもイメージが結びつかない

こればっかりはその時で勝負するしかないか

秋子さんのあの一言を忘れないようにだけはしておこう

 

「あ、そうだ相沢。例の依頼の知らせ来たか?」

「あぁ。ネックレスの件だろ」

 

立ち上がろうと思った時、北川から声が飛ぶ

内容は本日、学校で貰った先日の依頼内容の結果報告だった

トゥギリ退治による功績に加え、ボルゾイの捕獲による警備隊への協力

またネックレスもトゥギリの足に引っ掛かっていたらしく、依頼内容も無事達成

1人2万ベルの報酬予定だったが、5万ベルになっていた

一月分の学費になるわけだ

とはいえ、賞金首を2人も捕まえているので、現在は入学金も支払済みで学費にも余裕があるけど

 

「今回は勉強させてもらったよ。また一緒に依頼受けような」

「あぁ。機会があればな」

 

俺がそう返事すると北川は嬉しそうに笑った

……ほんと、真っ直ぐで前向きな奴だ

だが、今回は北川の活躍も大きかったと思う

あの演技とか本当に上手だったしな……それに実戦でも尻込みしていなかった

以前、試合の時に言った戦闘能力だけなら、も訂正してもいいかもしれない

 

「じゃ、俺もそろそろ部屋に戻ります。おやすみ」

 

 

 

 

「あれ、か……」

 

閑静な高級住宅街を抜けると、そこには歓楽街が広がっている

とはいえ、大きい街規模なので店舗の数は限られてくる

だが、ここには確かに金持ち達が集う小さな街が存在していた

宵も深まってくるというのに灯りは消えず、人々の行き交う影もまた尽きない

カノン街にもこういう場所はあるんだな……

寒風に思わずマントの襟をより首許に寄せる

 

「……ホテル、ジョルフィ」

 

歓楽街でも一際目立つ5F立てのビル

その最上階の部屋に俺は呼ばれていた

会合の時間は夜22時

時間は俺が指定ガ出来たので都合がよかった

ただ……こんなホテルとは思いもしなかったが

 

「…………」

 

堂々と正面の階段を上り、玄関へと迫る

門前に立つ警備員2人の視線が向けられるが、堂々としているためか声は掛けられなかった

ガラスのドアを押し開け、中に入ると5Fまで続く吹き抜けのロビーが広がっている

それはまさに圧巻されるだけの景観だった

 

「……気圧されては、ダメだな」

 

空気に呑まれてはいけない

傭兵チーム“届け想いよトゥ・ハート

ギルドにいた人から少し情報収集はしてみた

キー王国の西に隣接する大国――東鳩王国出身の傭兵チーム

発足からまだ2年足らずだが、東鳩王国内の賞金首を次々と捕まえて現在注目度NO1のチームらしい

構成するメンバーがいずれも20歳前後の若手であることも注目される理由の一つだとか

ベテランの傭兵達にもそのため少し睨まれている面もあるようだ

そんなチームが俺に接触を求めた理由

それは――盗賊団“紅桜べにざくら”の情報

 

「………………」

 

ロビーもなんなく通り抜け、階段を一つずつ上がっていく

ロビーには人がまだ出入りしていたが、階段は全くの静寂だった

交渉役と名乗った神岸 あかりさんの話では盗賊団“紅桜べにざくら”の情報を求めていた

だが、俺も手頃な臨時パーティーを探していたところ

タダで渡すわけにはいかない

そこで交渉しよう、ということで今夜の会合だ

やり手と評判の傭兵チームに呑まれないようにしっかりと気をもっておかないとな

 

「……505号室。ここか」

 

5Fまで階段を上り、指定された部屋番号を見つける

最上階だけあっていい部屋のようで、設置されているドアの質からしていいものだった

 

コン、コン……

 

「相沢 ゆうです。開けてください」

 

教えておいた偽名を名乗り、女性の声で呼びかける

一期一会の相手にわざわざ本当のことを教える必要はない

俺はドアの向こうに近寄る気配を感じつつ、静かにその場に佇んでいた

 

「ようこそ、悠さん。あがってください」

「どうも」

 

出迎えてくれたのはギルドでも会った神岸さんだった

可愛い笑顔を浮かべながら俺を中へと招いてくれる

……さすがに俺を騙して、ってわけはなさそうだ

部屋の中の雰囲気、空気を察してもとても落ち着いたものになっている

奥の部屋に数人の気配が感じるが、傭兵仲間のものだろう

高級感溢れる部屋の中を進むと、広がったのは広い空間

リビング、だろう

広々とした部屋にはソファ、テーブル、カウンターまで備え付けられている

そして正面の壁はガラス一面で巨大な窓となっており、明るい街の風景が綺麗に見ることができた

 

浩之ひろゆきちゃん。悠さん、連れて来たよ」

「はぁ……あかりぃ。その呼び方は……いや、いい」

 

神岸さんが笑顔を向けたのはソファに腰掛ける黒髪の人物だった

さすがに鎧等を着ているわけではなく、シャツにズボンとラフな格好をしている

しかし、その体つきは明らかに鍛えられており傭兵であることが窺えた

手にある両手剣の手入れをしていたのか、剣を鞘に納めつつこちらへと振り返った

 

「どうも、初めまして。“届け想いよトゥ・ハート”のリーダーをしている藤田ふじた 浩之ひろゆきだ」

「初めまして。相沢 悠です」

 

どこか余裕を持った感じで立ち上がり、俺に手を差し出す藤田さん

大人の余裕……とは違う

ゆっくり、というわけでもない

なぜか余裕を持って落ち着いている

そんなリーダーに相応しい器を感じさせる人物だった

握手をして感じたのはとても実直な人物

そして……真っ直ぐな心

 

「ま、立っててもなんだ。そっちにでも座ってくれ」

「はい。失礼します」

 

藤田さんの言葉に従い、そのままテーブルを挟んで藤田さんの正面へと座る

藤田さんは元いた場所へと座り、他のメンバーへ目配せをして俺の方へと視線を向けた

 

「さて、と。なら率直に聞きたいんだが、盗賊団“紅桜べにざくら”のアジトの場所は知ってるのか?」

「はい。実際に見たわけではありませんが、有力な情報を元に推測してあります」

 

藤田さんはゆっくりと、だが本当に率直な聞き方をしてきた

交渉においては余りにも不自然なほど、真っ直ぐな問いかけ

それに内心は驚くものの、俺は動揺を見せずに真っ直ぐに返事を返す

返事を聞いた藤田さんは僅かに口元に笑みを見せた

 

「俺達の目的は“紅桜べにざくら”の頭領である賞金首ルイ・ダニアンを捕まえること。あんたの目的は?」

「私の目的は“紅桜べにざくら”を早急に壊滅させること。それが達成出来るならば協力は惜しみません」

 

交渉の欠片も感じさせない会話は交渉人が見れば驚愕の事態だろう

これは交渉ではなく、互いの状況の説明だ

だが、それでも話が前へと最短で進んでいる

あの握手一つで俺を信じさせた彼の人柄のなせる技だろう

 

「よし。それじゃ明日、俺達とあんたで“紅桜べにざくら”をツブそう。賞金は人数で割勘でどうだ?」

 

膝に手を乗せ、僅かに身を乗り出させる藤田さん

だんだんと面白くなってきたのかその漆黒の瞳が輝きを見せるかと思う程だ

互いに計略なく、目的のためだけに労力を費やせる

その喜びを俺も、藤田さんもわかっているからこその喜びだ

 

「えぇ、私はそれでかまいません」

「よし! これで俺達は仲間だ。よろしく頼むぜ、相沢」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ニカッと笑みを見せる藤田さんに俺は丁寧に頭を下げる

これほど話が上手く運ぶとは予想だにしなかった

これでフェイユとの約束も守れそうだ

強力な傭兵チームと手を組めたことがなによりも心強い

 

「それじゃ、簡単に仲間を紹介しようか。まずはあっちにいる雅史まさしからだ」

「あ、僕からかい?」

 

藤田さんが示したのはガラス張りの前に佇む黒髪の人物

とても柔和な顔をしており傭兵をしているとは思えないほどの優男

しかし、腰に佩く刀が彼はれっきとした傭兵であることを物語っていた

僅かに歩く物腰、立ち振る舞いを見るにこの人――かなり強い

 

佐藤さとう 雅史まさし。とても剣術が強くて俺よりも強い位だ。東鳩内では“ 一閃 いっせん 雅史まさし”と言われてる程だ」

「ちょっと浩之。あまりおだてないでよ」

 

藤田さんの紹介に佐藤さんはちょっと苦笑いをして返していた

とても二つ名持ちの人物とは思えない程の柔らかさ

だが、一閃と言うと居合い、だろうか……相当の手練であることに違いはなさそうだ

 

「お次はそっちで座っている琴音ことねちゃん。自前の超能力や魔法での後方支援を主としてくれている」

「……姫川ひめかわ 琴音ことねです。よろしくお願いします」

 

ピンクの長い髪にとても静かな茶色の瞳をした人だった

声も小さめで、とてもクールな印象がある

しかし、超能力とは……なんの能力かはわからないが、かなり強いのだろう

超能力とは魔法とは違う、その人が持つ特別な力のことだ

身近な例で言えばヴァンパイアの空間操作なども超能力の一種だろう

人間では超能力を持っている人は数千――いや、1万人の1人いるかどうか、というところ

迫害なども受け易いはずだが、この人の目はクールではあるが真っ直ぐしている

藤田さんのおかげなのかもしれない

 

「それであっちにいるのが前原まえばら あおいちゃん。魔法と武術を組み合わせた格闘技で闘う」

「ま、前原 葵ですっ。よろしくお願いしますっ!」

 

青い短い髪を揺らし、キッチリと腰を曲げて挨拶をする前原さん

ちょっと緊張しているみたいだから、人見知りとかあるのかもしれない

小柄な体をしているみたいだけど、格闘というのだから素早い動きが得意そうだ

……にしても、魔法と武術を組み合わせた、って……エクストリームのことだろうか?

まさかこんなところでエクストリームの話を聞くとは思ってもみなかったな……

気になる部分はあるけれど、それは今、確認するべきではない

それは俺の過去へと繋がっていくキーワード

学生生活を送る今、皆のプレゼントを台無しにするつもりは俺にはない

 

「んで、最後がチームのあらゆる面を管理してもらってるマネージャーのあかりだ」

「うふふっ。はい、どうぞ」

「あ、どうも」

 

神岸さんはコーヒーを淹れてきてくれたみたいで、カップを受取るといい香りが鼻を擽った

寒い冬の季節にこのコーヒーはとてもありがたい

どうやら、以上で自己紹介は終わりのようだ

皆さんの視線が俺へと注がれている

藤田さん、神岸さん、佐藤さん、姫川さん、前原さん

総勢5名で構成されたチームか……バランスも悪くなさそうだ

俺は純粋によきチームに巡り合えたことを嬉しく思い、笑みをこぼした

 

「相沢 悠です。皆さん、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

戻る?