【覇道】

 

<Act.2 『遺跡に落とした忘れ物』  第6話 『穏やかな日々』>

 

 

 

 

 

「……さて、どうしよう」

 

今は寮の自分の部屋にいる

そしてベッドに腰掛けながら部屋を歩き回っている白犬を眺めていた

困りごとはまさにこいつ

コッソリと部屋に連れ込んだまではいいが、これからどうしたものか……

 

「…………」

「クゥ?」

 

部屋の匂いを嗅いで回っているようで、不思議な匂いでもするのか小首を傾げる白犬

かと思えばこちらへと振り返り、俺の腿に頭を乗せて横になっているレンを見つめる

……レンの匂いがして不思議なのかな?

そう思いながら俺はレンの頭を撫でる

するとレンは気持ちがいいのか僅かに体を震わせた

 

「今夜、フェイユのところにでも行くか……」

 

魔物のことならば魔者に聞くべし

ま、この周辺の魔者の情報についても一度、聞いておきたかったしちょうどいいかもしれない

ただ気になるのは白犬がなぜ、学校にいたか、ということだ

白犬は群れで生活しており、家族への思いやりが凄く強い

自らの命を犠牲にしてでも家族を助けようとする愛の溢れる種族だ

それを一匹だけでいるなんて、考えられない……

白狼の時のように攫われた、とかならわからないでもないが、迷い込んだ感じだった……のか?

あのミーシャやブッチョーにより攫われた、とも考えられるか……

 

「なぁ、おまえ。どうして学校にいたんだ?」

「クゥァ」

 

俺の問いかけにも元気に返事をするだけ

さすがに人語等を理解できるわけではなかったか……

これで完全に打つ手なし

ま、あのミーシャ達に話を聞ければ一番いいんだろうけど、さすがにそれは無理だろう

フェイユが知っている、ってことに賭けてみよう

 

「――に、しても疲れたぁー」

 

ベッドにそのまま後ろ向きに倒れ込む

朝早くからマーブル遺跡に出発してトゥギリや機魂兵との戦闘

科学者ボルゾイへの詰問

その次は学園での依頼内容の報告、しかも事細かに

んで、最後にはミーシャとかいう変な奴とも出くわすし……さすがに疲れた

ベッドの柔らかさが心地よく、思わず目を開けれなくなりそうだ

 

「お、レン」

「……………」

 

レンは俺の腿から頭を起こし、俺の上へと乗ってくる

本人は猫みたいな気分なのかもしれないが、人化しているので妙に密着しているように見えるだろう

まぁ、部屋に誰か来るわけでもないからいいんだけど……

 

「…………まさか、“白銀の逆十字アンチ・クロス”だったとはね」

 

思い出すのはボルゾイの件

あの遺跡の地下で俺は奴から色々と情報を聞き出していた

まず、奴の名はボルゾイ

闇組織“白銀の逆十字アンチ・クロス”に所属する科学者で様々な兵器等を発明してきたらしい

それはあの機魂兵もそうだし、トゥギリについていた不思議な防御機械もボルゾイ作だそうだ

さすがに組織については詳しく話す様子はなかったが、本人が遺跡にいた経緯は問い質した

なんでも組織内に優れた科学者が現れて自分の発明が少し蔑ろにされていたらしい

それで発明に必要な材料も十分に提供されなかったため、勝手に集めることにしたらしい

だからマーブル遺跡の地下に隠されていた“守りの緑石グリーン・ストーン”の採掘が目的だったようだ

守りの緑石グリーン・ストーン”は防御に優れた頑丈な鉱石で採掘量は世界で見ても少ない

まず採れる鉱山が少ないことと、採掘するには特殊な機材が必要になってくるからだ

それほど硬い鉱石なので採掘を諦めているところも多い

だが、一度防具まで加工してしまえばかなりの高値が約束されるため、一攫千金みたいな感じかな

 

「……名前、伏せといてよかった」

 

闇組織“白銀の逆十字アンチ・クロス

俺が関与したことはないがその組織名なら裏世界にいた者なら誰でも知っている

世界規模で展開している謎の組織

目的等は不明だが、影響力は裏世界でも五指には入る巨大な組織だ

そんな組織と関わるなんてこと、ない方がいいに決まっている

舞も北川も、名前が割れなくてよかった……

 

「ふぁ〜ぁ……夜は長いし、一眠りしておこうかな……」

 

 

 

 

「ほほぅ! それで、どうなったと?」

「そこで相沢の魔法が炸裂したんだ。光の鎖? みたいのが鎧の腕に絡まって――」

 

晩御飯の時間

俺は黙々と食事に耽っていた

まぁ、夜抜け出すため昼寝したからお腹もいい感じで空いていたし

その夜の席の話は本日の依頼のことで持ちきりだった

折原がしつこく話を聞くため、北川が頑張って説明してくれている

頑張れ北川

俺は静かにご飯を食べたい

 

「へぇ〜。大変だったみたいだね、祐一」

「ま、それなりに……な」

 

隣で座る名雪も遠くで話す北川の話を聞きつつ、俺の方へと話しかける

何がそんなに興味があるのか……と思えば、自費学生ではないから依頼を受けることがないのか

依頼そのものに興味があるのかもしれないな

俺はそう思いつつ、野菜の炒め物を摘む

 

「ねぇねぇ、祐一。どんな依頼だったのか教えてよ〜」

「あっちで北川に聞いてくれ」

「私は祐一から聞きたいの」

「パス」

「うぅ〜……祐一のケチんぼ」

 

なぜ俺から話を聞きたい?

俺としては毛頭、話すつもりはないので可哀想だが拒否に徹底する

ジト目でこちらを恨めしそうに見てくる名雪の視線は気になるが、俺は気にしていないフリをしてご飯を進める

依頼の内容をそうホイホイ話すのは俺の主義ではない

一応、業務上の秘密保守の義務はあるわけだし

 

「そういえば長森さん。今日は折原と一緒だったの?」

「へぇっ!? え、え、うん、はい。そうだったよ」

 

話しかけられると思っていなかったのか、斜め前に座る長森さんは驚きの声をあげた

逆にこっちが少しビックリしてしまった

掴んでいた唐揚げを皿の上に落とし、茶色の瞳をまん丸にしている

……うむ。ちょっと悪いことしたかな?

 

「あいつ、今日は何してたんだ?」

 

話題を変えたかっただけだが、微妙に気になることでもあるので聞いてみた

折原 浩平

普段からブッ飛んでいるあいつが普段、何をしているのか

非常に気になる

小さな期待を胸に抱き、長森さんの返事を待つ

 

「……今日は浩平、屋根を飛び移る訓練をするんだ、って言って町の民家の屋根を飛び回ってたよ」

「…………………そうか」

 

妙に疲れた顔をしたなぁ、と思ったところでこの内容

とりあえず、くだらなくてそして凄く大変だったんだろうな、というのが窺い知れた

休日の日は本当にロクなことをしていないんだな、あいつ……

まぁ、何かしらの訓練にはなりそうではあるが、人の家の屋根を飛び回るって……いや、考えるのもやめておこう

 

「うぅぅ〜〜」

「お、おい。どうしたんだ、名雪……?」

 

なぜか凄く不機嫌そうな顔で声をあげる名雪

いったい何があったんだ……?

非難するようにこちらを見るその視線の理由は俺にはわからない

困ったな、と思った時に不意に視線を感じた

 

「…………舞?」

「………………」

 

長森さんの隣に座っている舞がこちらをじ〜っと見ていた

その視線の先を辿ると、そこには俺の皿の上に残っている唐揚げを凝視しているようだった

……もしかして欲しいのか?

 

「舞、あげるよ」

「…………ありがとう」

 

いいの? 的な目配せは一度

俺はそれに静かに頷いて皿を受け渡した

これで俺の夜ご飯は終了、ってことだな

 

「ごちそうさまでした」

「うぅ〜〜!」

 

まだ隣で唸っている名雪

残念ながらかまっている余裕はそろそろ俺にはない

時計を見ると今は夜の21時

そろそろ出発しないと戻って仮眠をとる時間すらなくなりそうだ

俺は自分の皿を持ってキッチンへと向かう

――その時、一つの影が俺の前に立ちはだかる

 

「――待て、アイ子」

 

――ドガッ!

 

一応、待ってやってその一言

怒りで声が出る前に膝が出てしまった

斉藤の腹に打ち込まれた膝は見事に決まり、斉藤は腹部を押さえて蹲る

ふんっ。馬鹿にした呼び方するからそうなるんだよ

俺は心の中での一言と、一瞥を送り静かにキッチンへと向かう

キッチンに入ると可愛い三編みが揺れていた

 

「秋子さん。ごちそうさまでした」

「あら、お粗末様です。そっちに置いておいてもらえるかしら?」

「はい。わかりました。お願いします」

 

お皿を指定された場所に置き、俺はダイニングへと戻ると再び馬鹿が立ち塞がった

少し細めの顔は僅かに青みを帯びており、先程のダメージを引きずっているのは明らかだ

 

「はぁ……で、なんだ?」

「おまえな! そんなに綺麗なんだから男とはいえ、すぐに暴力に訴えるのはやめ――ぁぐぅっ?!

 

やかましいので一蹴

両手はふさがっていなかったが、面倒なので死角から蹴りを側頭部に打ち込んでやる

すると面白い程、見事に決まって斉藤はその場に膝を折り、倒れ込んだ

吹き飛ばす蹴りではなく、衝撃を打ち込む蹴り

ゆえに斉藤は吹き飛ばず、その場に倒れ込むこととなった

 

「よいしょ、と」

「……相沢。おまえって容赦ないよな」

「こいつがふざけたことばかり言ってるからだよ」

 

俺はイスに気絶した斉藤を座らせてやると、様子を見ていた北川が一言

まぁ、少し可哀想な気もするが、ふざけるこいつが悪いのも事実

容赦してやる余地はない

俺は部屋に戻ろうと歩き出した時、新たな刺客が声を挙げた

 

「あいや待たれぃっ!」

「……なんだ、今度は」

 

声を挙げたのは折原

ご飯の途中だと言うのに立ち上がるのは感心しないな

箸を俺に向けて頬にごはん粒をつけ、真剣な顔をしている

……マヌケにしか見えない

 

「同志斉藤の言えなかった台詞を俺が言おう! 相沢! おまえ川澄先輩を呼び捨てとはどういうことだ!!」

「そうだよ〜。どういうことなの、祐一〜」

 

めっちゃ真剣な顔で言い出したのはそんなことだった

なんだ、斉藤はそれを言おうとしていたのか

俺は肩透かしをくらった気持ちになり、ドアを開けながら一言

 

「舞がそう呼べって言ったからだよ。それじゃ、おやすみ」

 

そう言い残して話を無理矢理終わらせた

ドアを閉めた向こう側で声があがるのが聞こえる

はぁ……これ以上話を長引かれても困る

そんなため息がこぼれそうな憂鬱さを覚えつつ、階段を上がる頃にはちょっとだけ唇の端が吊り上っていた

 

「ハハハッ。これが学生か……」

 

 

 

 

 

 

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