【覇道】

 

<Act.2 『遺跡に落とした忘れ物』  第3話 『チームワーク』>

 

 

 

 

 

「これは……」

 

設置された機械に近づいてみると、その巨体の後ろには闇の渦巻く壁が存在していた

機械から何かの光が放たれており、その光に照らされた壁がドア一枚分程度の闇を映している

渦巻く闇はまるで何もかもを吸い込むかのようにゆっくりと、そして静かに動いていた

 

「……なんだこれ。不気味だな」

「…………」

 

北川も、川澄さんもその闇を見て怪訝そうに見つめている

つまり、見たことがない……そういうことだろう

しかし俺にはあった

異空へと繋がる“異世界への扉ゲート”と呼ばれる存在の入り口まさに一致する

異世界への扉ゲート”は異空――つまり次元を超えることが可能となる

つまり、この渦巻く闇の向こうには続く世界があるということ

 

「空間を超える移動装置だ。昔、見たことある」

「空間を超える? ってことは……」

 

俺の説明に北川は驚きつつも、その闇へと再度視線を向ける

そう、この先には間違いなく何者かがいるはずなのだ

まぁ、あれだけの警備を用意していた以上、只者ではないだろう

また待ち受けているわけでもないだろうが……危険があることには変わりはない

 

「俺が先に行く。問題がなければ手招きをするから、“異世界への扉ゲート”を潜ってくれ」

「…………」

 

僅かに身を乗り出しかけた川澄さんを手で制し、言葉を挟むことができた

危ない……また出遅れることになるところだった

まぁ、危険を顧みないその心意気は凄く評価出来る

チームリーダーとしては悪くない

が、正直万能性から見れここは俺が適正だろう

特に“異世界への扉ゲート”のあの潜る時の独特の感覚は初めてだと気になって集中力が途切れる

敵が待ち受ける可能性も考慮するなら、経験者である俺の方がいいだろう

夢幻を魔力で手甲へと変化させ、防御を優先した装備で“異世界への扉ゲート”の前に立つ

 

「じゃ、先に行くぞ」

 

そう言い残し、後ろで北川が息を呑む音を最後に聞いて俺は“異世界への扉ゲート”へと身を入れた

すると真っ暗闇の中で妙な浮遊感と生温い空気の圧縮されたみたいな息苦しさを味わう

しかし、それも2秒にも満たない一瞬だった

急に重力の恩恵を授かるとバランスが崩れそうになる

しかし、それよりも先に周囲の情報を得ることを優先し、視線を巡らせた

 

「…………異常、なし」

 

広がったのは左右に別れる通路

壁、床、天井は綺麗に施工されており、崩れる心配等はなさそうだ

明かりは所々にある魔光石により一定の明るさを保たれている

…………ハッキリとはわからないが、感覚的には地下、って感じか

天井の裏から感じる妙な圧迫感は恐らく大地

異世界への扉ゲート”の移動でかかった時間を考慮してもそう遠くない場所だろう

おそらく、マーブル遺跡の地下……ってところか

俺は危険がないことを確認すると、“異世界への扉ゲート”に手だけを入れて向こうで手招きをする

異世界への扉ゲート”の中で距離感とかがないから奇妙な感覚なんだよなぁ……

手を引っ込めてから数秒

無事に着地する川澄さんと、片膝が曲がってコケそうになった北川が到着した

 

「ぅわっ!? ――っと……お、おぉ! どこだ――っぐ!?」

 

初めての“異世界への扉ゲート”に対する驚きなのだろう

その気持ちはわかるのだが、大声を出すべき場面ではない

俺は無理矢理手で北川の口を抑え、声を塞ぐ

俺の行動の意味をすぐに理解してくれたようで、北川の瞳には冷静さが取り戻されていた

 

「……わりぃ」

「気にするな。それより、左と右……どっちに行くか、だ」

 

左と右の通路を見比べるが、まったく同じ造りで判断のしようがない

周囲の状況も細かく見てはいるが、足跡、壁のほつれ、物音……等、何も判断する材料がない

俺としては運試しでどちらかを調べるしかない、ってのが正直なところか

二手に分かれるのがベストか……もし外れの道を行ってこの“異世界への扉ゲート”を片付けられたらヤバイだろうし……

 

「――こっち」

「え?」

 

急に川澄さんが声を出す

それで俺は思考が途切れ、思わず裏返りそうな声を出してしまった

振り返って川澄さんを見てみれば、既に歩き出している後姿が目に入る

 

「ちょ、ちょっと川澄さん!」

 

またもや勝手な行動

俺は僅かな苛立ちを覚えながら小走りで川澄さんの隣に並ぶ

一方の川澄さんは俺の声など聞こえないとばかりに歩みを止めることはなかった

 

「川澄さん。勝手に動くのは――」

「――音が聞こえた。この先に、いる」

 

そう言い切った川澄さんは俺のことなど歯牙にもかけず、力強い歩みで道を進む

俺はそのあまりの自信満々さ、そして力強さに押され足を止めていた

――が、すぐに小走りで駆け寄り黒髪の後頭部にチョップを叩き込む

 

「……痛い」

「川澄さん。俺達は今、チームで動いている。だから何かに気付いたり、行動する時は声をかけよう

 チームワークを合わせて一緒にしていきましょうよ。せっかく一緒に行動しているんだからさ」

 

俺の一撃に頭を抑えながら振り返る川澄さんの視線は非難のものだった

しかし、そんなことは気にかけず、俺は思ったことを真っ直ぐな瞳と共に伝える

このままではよくない

そう感じたからこそ、ここで川澄さんに協力することの大切さを伝えるべきだと思った

あれだけの実力の持ち主だ

今までは一人で依頼とかこなしてきたのかもしれない

でも、それだけではいけない……

 

「…………わかった」

 

静かに首を縦に振る川澄さんを見て思わず安堵の息をこぼす

なんとなくでも伝わったみたいでよかったぁ……

肩の力を僅かに抜き、俺はそのまま川澄さんに言葉をぶつける

 

「それで、こっちの方から音が聞こえたの?」

「…………」

「どんな音でした?」

「…………わからない」

 

俺の言葉に頷いたり、首を振ったりする川澄さん

やはり口下手みたいだ……しかし、無口なりにも一生懸命伝えようとする気持ちは感じるのでなんか嬉しい

こっちの通路の先から物音が聞こえた

それも俺が聞こえない程、小さな音だったんだろう

なんの音かまで判別出来るほどは聞こえていない……

 

「わかりました。それじゃ、全員で行きましょう」

「お、おい。いいのか、相沢?」

「あぁ。大丈夫だ」

 

俺の返答に北川は驚きの声をあげる

大丈夫だと言いつつ俺の心の中にも不安はあるが、それは今表には出さない

確かに不安はある……しかし、敵は俺達の侵入には気付いていないだろう

そしてこの先には間違いなく誰かがいる

作戦行動としてはNGな動きかもしれないが、スピードを重視してここは取り組んでみようと思う

この先にいる人物を捕縛してしまえばこっちのものだ

後はどうなっても俺がなんとかすればそれでいい

 

「それじゃ川澄さん。先に進みましょう」

 

 

 

 

「フヒャヒャヒャヒャッ!!」

 

響く奇妙な高笑い

通路を進んだ先にあったのは大きな部屋が一つ

扉が開いていたので除き込んでみると、中には白衣を着た男がいるだけだった

男は緑に煌く奥の壁を前にして、壁を削り取っているようだった

緑の壁――“守りの緑石グリーン・ストーン”の採掘が男の目的のようだ

 

「……相沢、どうする?」

 

扉の影に身を潜める俺達

北川の言葉に俺はまだ返事をせず、部屋の中の様子を確認している

広さは講堂程ではないが、それなりの広さはあるようだ

長方形に広がる部屋に障害物は……なし

男の隣にある機械や、採掘済みの鉱石が積まれているリアカー程度だ

しかし、その男の後ろには甲冑の鎧が3体佇んでいる

身動き一つしないが、あの鎧は多分……さっき戦った鎧と同じ連中だろう

灰色の甲冑は大剣と、小振りのナイフを2本持つ奴

真ん中の赤い甲冑は柄の長い槌を装備している

……一筋縄ではいかないだろうな

 

「……よし。川澄さん、北川。よく聞いてくれ」

 

頭の中で構想がある程度まとまり、部屋の中を見る2人に小さく声をかける

2人は俺の方へと向き直り、静かに俺の発言を待っていた

そう、川澄さんも真剣に俺の言葉へと耳を傾けてくれる

……凄く純粋でいい子、なんだよな

ちょっとした勘違いをしていた自分が少し恥ずかしい

 

「まずは北川。おまえ一人で部屋に入ってあの男から出来るだけ情報を聞き出すんだ」

「げっ……マジか」

「マジだ。おまえならその竹刀の得物を見せるだけで外にいたトゥギリに対処出来たことがわかる

 だから最も不信感がない。そこで相手の油断を誘い出来るだけ喋らせるんだ」

「……了解。出来るだけやってみる」

 

もう学生とは思わない

相手との駆け引きが重要になってくる一番の仕事を北川に託す

北川は初めてのことなのか、ちょっと緊張の高まりを隠せないでいた

それでもどう話していくべきなのか、を真剣にすぐ考え出している様子を見れば心配はない

こいつなら上手くやってくれるだろう

 

「俺と川澄さんは北川の話が終わるか、失敗した時に突入する。奇襲攻撃で鎧を少しでも早く倒すことを狙いとする」

「……わかった」

 

俺の説明に川澄さんはコクリと頷き、真っ直ぐな黒瞳を見せてくれる

正直、これだけ強い人がいると心強い

問題はここから敵の場所までが遠いことだが、そこは俺の魔法でどうにかしていくしかないな

 

「それから侵入後、敵との会話があれば俺達はカノン街の特別警備隊、という者という設定で話してくれ

 後、それぞれを本名じゃなくてコードネームで呼ぶことにする。髪の色で北川はキン、俺はシロ、川澄さんはクロってことにしよう」

「……相沢。おまえ、名前のセンスないな」

「うるさいっ」

 

質問かと思えばくだらない不満だったので言葉で一蹴する

くそぅ……名前のセンスがないってたまに言われるからけっこう気にしてるのに……

まぁ、そんな冗談染みた話はさておき

まず俺達の役職を誤魔化した件はまず、相手に嘗められないため

また警備隊と組織の名前を出せば増援が来る、また3人ではない、等の相手に疑念を抱かせることが出来る

後は名前を本名で呼ばないことだが、これは単純に後々の復讐行為等の回避策のため

わざわざ敵に本名を知らせる必要なんてないからな

なによりあの白衣……そして機械の開発力を見るにそれなりの組織に所属はしていそうな感じだ

この2人にそんな重荷を背負わせる必要はないだろう

 

「よし。それじゃ2人共――作戦行動開始ミッション・スタートだ」

 

 

 

 

 

 

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