【覇道】

 

<Act.2 『遺跡に落とした忘れ物』  最終話 『“紅桜”の思惑』>

 

 

 

 

 

「……ふぅ。後、1ヶ月……」

 

天幕の中、一人でワインの入ったグラスを傾ける

壁にかけたカレンダーを見ながら、残された日数を確認していた

スノー大陸での活動期間は残り1カ月

まぁ、年内中ってことになるかね……

 

「それまでに奴等の条件、達成しないとね……」

 

瞼を閉じれば思い出す、あの気味の悪い怪物共

しかし、海上へ出れば奴等に敵う者などいないのだから仕事の上では心強いパートナーではある

アタシとしては人だろうが、魔物だろうが関係ない

世の中はいい奴か、悪い奴かのどっちかだ

ま、少なくともアタシは悪い奴なんだろうけど、ね

 

「総額1億2500万……ってところか。4割は連中へ山分けになるんだし、残りは7500万……まぁまぁだね」

 

帳簿に目を通し、略奪した金品の総額を確認

奴等――海賊に支払うのは4割という契約なので、5000万になる

武器や食料も基本は奪って賄ったので儲け額はそのまんま、ってわけ

ま、7500万もあればしばらくは遊んで暮らせるな……

紅桜べにざくら”の人数は120名

1人頭、62万ってところか……もうちょっと稼いでおきたくはある

 

「とはいえ、2ヶ月も同じシマで働いたんだ。目ぼしいところは終わってる。となると……」

 

スノー大陸の地図を見渡しながら、アタシはまだ襲っていない場所を探す

安全な小粒の狙い目は全て襲撃済み

となると、多少アシがついてもかまわない……大物を狙うべき

どうせなら最後にでっかいヤマでも当ててく、ってのが賊ってもんだろ

 

「近場で言うならカノン街だが……パス、だね」

 

カノン街

この灯台もカノン街の所有する建物だが、相手が悪い

優秀な警備隊は総勢で500名

また領主である久瀬が保有する兵士は1000に及ぶという

そんな軍勢と120名でやりあるなんて計算の出来ないただのバカだ

街レベルでは略奪は厳しい

やはり村……それも、大儲け出来る一癖持った場所…………

アタシは地図の左右へとゆっくりと視線を動かし、そしてある場所で目が留まる

 

「…………リゾート村、バカス」

 

東鳩王国の北西に位置する山間にある村

貴族達の別荘も多く立ち並ぶため、自警団などの自衛力はあるが所詮は観光地

街に比べれば大した数じゃないはずだ

問題はここからでは遠いということ

馬車を使っても2日はかかる道程だ

これをどう解決するか、が問題だね……

 

「……ん?」

 

不意に天幕の外に足音が聞こえた

走ってこちらへと駆けて来るのだろう

足音は徐々に大きくなってきて、そして――止まった

 

「どうしたんだい?」

「頭! ついに天狗の子をフランケの兄貴が捕まえやしたぜっ!」

「なにっ!?」

 

手下の話を聞き、思わずイスを飛ばす勢いで立ち上がる

天狗

それは海賊達との契約で求められていたもの

なぜ海賊が天狗を必要なのかは不明だが、交換条件なのだから仕方ない

ゲルグ高山に棲むという伝説の魔者――天狗

実在したことにも驚きだが、それ以上に捕まえることが出来たのが驚きだった

しかし、フランケか……天狗に傷がなければいいが……

私はそのまま天幕を飛び出し、案内をする手下に続く

喧騒が飛び交っていた

人だかりがあるのは野営の陣の中心程

そこの広場に手下どもが集まっていた

 

「へっへー。天狗とは言っても、人間みたいだな……」

「羽つき人間ってか? ハハッ、そりゃ言えてる」

「にしても兄貴。よく捕まえましたね?」

 

人だかりに近づくと、囲まれた中心に2つの人影

1つは全身を包帯で巻いてあり、コートを着ている変人――フランケ

アタシも何者かは知らないが、その剣の腕前はアタシに並ぶ程のものがある

実力でウチのNo2にまでのしあがった男だ

ちょっと不気味なんだけど、ま、人を殺し過ぎるだけでそれほど問題はない

 

「……ケッ。手こずらせてもらったがな」

「ぁぅっ!?」

 

フランケに横腹を蹴られ、呻き声をあげる存在

白い和服を基調とした服を着ており、背中から黒い翼が2つ、生えていた

手は縄で縛られ、身動きはとれない状態になっている

しかも、あの縄は魔封じの呪術が込められた魔道具で、魔法を使うことも封じているみたいだ

となれば、問題はなさそうか……ま、だいぶ弱っているようではあるけどね

 

「あ、頭!」

「さすがじゃないか、フランケ。アンタに任せた甲斐があった、ってもんだね」

「……ヘンッ。ま、あの海賊野郎に嘗められるのはゴメンだからな」

「確かに。ほら、おまえら! 天狗を檻へブチ込んどきな!」

「へいっ!」

 

フランケの唯一見える青い瞳が不敵に笑みを見せる

ま、海賊野郎に嘗められるなんてたまったもんじゃない、ってのは同じ気持ち

最初からフランケと数名の連中に天狗のことは一任してきた

そのアタシの判断が間違いじゃなかった、と思えればまぁ多少は嬉しくもある

しかし、伝承によれば多大な魔力を持って天変地異を巻き起こす、と言われる天狗

それをほぼ無傷で捕まえるとは……ちょっと末恐ろしくはあるけれど、ね

 

「おい、ルイ。ちったぁ、いい案は浮かんだかよ?」

「あぁ。最後に一稼ぎする相手は見つけたよ」

 

天狗を連れていく部下達を見ながらフランケがアタシの隣に並ぶ

包帯のせいか、独特の消毒の匂いが鼻を擽った

 

「ま、疲れただろ。その話を肴に一杯やろうじゃないの」

 

 

 

 

 

 

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