【覇道】

 

<Act.1 『初めての学園』  第9話 『歓迎パーティー』>

 

 

 

 

 

「よし、これで大体片付けは終わったな」

 

自分の部屋を見渡して、ちょっと一息

俺の部屋は3Fの一室

とはいえ、部屋の内装を見て少々驚いた

クローゼットにベッド、タンス、小さなテーブルに座布団

それに机……鏡まで置いてある

そこらの宿屋を上回る充実した家具一式だったからだ

ましてや秋子さんのセンスなのだろうか?

中々に統一感がありいい感じ……家賃、あんだけでいいのか?

 

「…………」

「お、レン。手伝いありがとな」

「♪」

 

人化したままのレンが擦り寄って来る

可愛らしいその頭を撫でてやると、レンは喜ぶように目を細めた

……初めの頃は本当に無表情だったけれど、今ではいい表情をするようになったよな……

レンの笑顔を見て俺は喜びを噛み締める

レンが心を開いてくれている、そのことに……俺のことを慕ってくれていることに……

 

「さぁて、ちょっと考え事でもしますか」

 

元々旅の者

大した荷物も持っていないので片付けなどすぐに終わった

レンも手伝ってくれたしな

正直、この立派な家具達を使いこなせるほどの荷物は部屋には集まらないと思う

物を集めるタイプでもないしな

 

「よいしょ、っと」

 

座布団に座ると自然と横にレンが座った

レンには既に基本的には人化したままでいてもらうようにお願いしてある

元々、レンが人化するのは負担にはならない

変身する際に魔力を消費するだけなので、どっちの姿でいてもレン自身には問題ないのだ

……正直、本来の姿が猫だ、という確証もあるわけではないし……

 

「赤鬼……」

 

懐に忍ばせておいた手配書、赤鬼の紙を取り出す

賞金額は500万……正直、まだまだ安過ぎる値段ではある

“白き辻斬り”を捕えたため、生活費や学費については当面問題はない

しかし、俺の生きていく道は人と魔物との共存

そのためには世界中の魔物の情勢、状況を把握し、人との共存に歩めるようにしていかねばならない

無論、世界中にそんな正義を翳すつもりはない

俺は俺達が生きていく分の道を確保できればそれでいいのだから……

特に今は皆の気持ちとして年相応の学生を味わってくるように言われてここにいる

けれど、こうした魔物と人とのトラブルを無視するのはどうもできない

赤鬼

こいつがどんな性格で、何が目的かはわからない

悪い奴なら魔物の評判が落ちるので倒せばいい

困っているなら俺が力になって助けれやればいい

余計なお節介かもしれないが、ほおっておくなんてことは俺にはできない……ただ、それだけだ

 

「赤鬼はギルドで新たに情報が入ってないか確認して、また捜索だな」

 

とりあえずは夜の目標は赤鬼、ってことで行動しよう

もともと“白き辻斬り”だって赤鬼を探していて偶然遭遇しただけだし……

目的の一つが定まったところで、懐が次の紙を取り出す

それはカノン街近郊を描いた地図だ

 

「周辺の地形は、と……」

 

カノン街はスノー大陸でもほぼ最北端に近い地域

周囲には幾つかの村などもあるが、基本的には広大な自然が広がっている

東北には先日行ったばかりの雪原スノレティア

北西にはゲルグ高山に南西には雪森ホルン

北にはルベック森に南にものみの丘

東南には大森メロウスノーにその北には三日月山岳

まぁ、たくさんの自然地域があるのだが、魔物は基本的に地域毎に主――つまりボス、みたいな奴が存在する

弱肉強食の世界のせいか、群れを率いる連中ってのはいるものだ

スノレティアにはフェイユ率いる白狼一族がボスだろう

まぁ、フェイユに魔物の情勢が聞ければ一番いいのだけど……今度、会った時にでも聞いてみるか?

これだけ地域があるとトラブルとかもありそうだし……

 

「…………ん?」

 

考え事をしていると、下の方から声が聞こえた

誰かが帰ってきたのだろうが、その声にどことなく聞き覚えがある

嫌な予感を感じずにはいれなかった

直後、聞こえてくるのは階段を駆け上る凄まじい足音

それも、よく聞けば一つではない――っ!

 

ドガッ!

 

突如開かれるドア

俺は自分の意思とは関係なく、座った状態のまま一気にドアの側面へと滑り込む

現れた敵に対して刀を模した手が敵の喉元に添えられた

 

「よぉ!! 帰っていたかあいざ――わ、の…………」

 

現れた敵――もとい茶髪青年折原は満面の笑みが引きつった笑みへと変わっていく

見知った顔と認識した後も、俺の鋭い殺気は消え去らない

下手に動かない方がいいと判断したのか、浩平はピクリとも体を動かさない

 

「……なぜ、おまえがここにいる」

「はははは、簡単なことだ。俺もここの寮生だからに決まっているだろう?」

 

認めたくない

認めたくはなかった……まさかこんな世紀のお馬鹿が同じ寮だなんて……

その認めたくない事実を公言されたため、俺の手刀は脱力した

瞬間、浩平の体が解放されたかのように動き出す

 

「はははは! 驚いたか! そして喜べ相沢よ! 我が盟友よっ!」

 

俺を指差してまるで勝利宣言をするようなお馬鹿――浩平

別に負けたわけではないが、なんか悔しい……

学校だけではなく、まさか寮に戻ってまでこいつと付き合うはめになるとは……体力がもたないとしか思えない

そんな最中、折原の後ろを駆け抜けていく影があった

白いローブをまとまった灰色髪の男――斉藤だった

 

「麗しいお嬢さん。俺と一緒にお茶でもしませんか?」

「消えろおぉっ!!」

 

レンに向かい麗しく挨拶する斉藤に反射的に蹴りが飛ぶ

斉藤は読んでいたのか、俺の叫び声の前に既に体を後ろへと下げていた

体術は出来なさそうなのにいい読みをしている……

レンの前に守るように立つ俺に対して、斉藤は鋭い目つきで俺を見てくる

上から下まで見てくるその目はなんか……嫌らしいというか、気持ち悪い

 

「……信じれんな。その姿で男、とは……」

「そりゃどうも。俺のことはどうでもいいが、レンに手を出すな」

「いや、実に惜しいっ!!」

 

こいつも馬鹿だ

嘆くように天に手を掲げ、涙する顔を隠すように右手で顔を覆った

 

「俺は悲しいっ! これほどの美女が、実は男だなどとっ! 俺は悲しいぞぉーっ!」

「……折原、もしかしてこいつも……?」

「無論、我が寮生だ。相沢、おまえと同じ寮の生徒だぞ」

 

その一言でガックリと頭が項垂れる

見知らぬ生徒どころか、この数日でめっちゃ会ってる奴ばっかり

これは偶然か? 偶然なのか?

しかも、面倒くさそうな奴ばかりだ……

俺の学生生活に曇り空が広がる気配を俺は感じてならない

 

「まぁ、仲良くしようではないか相沢の。はっはっはっはっは!」

 

 

 

 

「では、改めて……ようこそっ! “雪月華スノー・ライト”へっ!!」

 

折原の大きな一言と同時に各所でクラッカーが鳴った

夜も深まるダイニングにて、俺を歓迎するパーティーが開かれている

一通り全員の自己紹介も終わり、ようやく美味しい料理に手をつけれることとなった

この料理、全て秋子さんの手作りだと言うのだから驚きだ

……いや、さすが、と言った方がいいのかな

 

「ねぇねぇ祐一! この玉子焼き、食べてみて!」

「ん? それじゃ、遠慮なく……」

 

俺の隣に座る名雪は最初からテンションが高い

まぁ、学校で再会を果たしたとはいえ落ち着いて話も出来てなかったしな……

それでも7年も会わなかった従兄妹と会えただけであれだけ喜んでくれるとは、ちょっと照れる

 

「うん、美味しい」

「ほんとっ!? この玉子焼き、私が作ったんだよぉ〜」

「お、凄いじゃないか。秋子さんに似て料理上手なんだな」

「えへへ〜♪」

 

俺の言葉に屈託なく喜ぶ名雪

まるで子供ような純真さを身に着けたままだと、その笑顔を見ていて思う

その笑顔がずっと続けばいい……

きっと秋子さんが大事に守り、そして育んできたものだというのを感じる

とても優しく、とても暖かい空気……

 

「よっ。ちょっと落ち着いたか?」

 

気づけば後ろに北川が来ていた

わざわざ席を立ち、近くに来てくれたらしい

見た目どおりのいい人っぷりだ

親近感の沸く気軽なその態度が今の俺にはちょうどいい

 

「まぁな。でも、さすがに驚いたな……」

 

改めてパーティーの参加者を見てみると、中々に見知った顔が多い

まずは名雪に北川

そして夕方部屋に乱入してきた折原と斉藤

んで折原と同じタクティス皇国から留学しているという長森瑞佳ながもりみずか

長い茶色の髪に赤いリボンが似合う、とても穏やかそうな人だ

なんでも折原の幼馴染らしく、今も隣の席で折原の世話――というか、面倒を見ている

あの馬鹿にもこんな優秀なストッパーがいるからこそ、上手くやっていけているのではないだろうか、と思える程だ

他には同じクラスの委員長をしているという遠野美凪とおのみなぎ

長い黒髪にどこを見ているのかわからないが、真っ直ぐな黒瞳

物静かがイメージ通りでかなり静かな人のようだ

今も皆が談笑している様子を見て、一人でもくもくと食事をしている

最後は川澄かわすみ まい

こちらも長い黒髪だが、リボンで後ろはまとめてあるみたいだ

こちらも遠野さんと同じぐらい物静かがイメージだが、目つきのせいだろうか?

中々に鋭い感じがする……まぁ、実際編入テストの時に鋭い太刀筋を見せられたわけだが

こちらももくもくと箸を進めているが……俺としてはギルドで報酬をもらった後に会っている

……そのことをどう思っているのかが凄く気になるのだが、当の本人は素知らぬ顔で料理をつついている

以上がこの“雪月華スノー・ライト”で生活を共にしていくメンバーらしい

ちなみに部屋割りはこうなる

 

1F 秋子、名雪、長森、空室

2F 北川、斉藤、折原、空室

3F:相沢、遠野、川澄、空室

 

驚いたことに川澄さんを除けば全員同じ学年

そして斉藤を除けば全員同じクラスだという偶然

……それはつまり、殆ど一緒、って言っているのと同じじゃないかと思う

まぁ、いずれも癖がありそうな面子だけど……間違いなく言えるのは全員、いい人そうだ、ってことだけだ

 

「まぁな。俺も偶然にしちゃ出来すぎじゃないか、ってぐらいだと思うよ」

「そうだよねー。これだけ同じクラスの人が揃うのも珍しいよね」

 

北川の意見に名雪も頷く

しかし、その笑顔は笑みに満ちており一緒で嬉しい、って感じではあったが

だが、落ち着いて考えてみればなんとなく偶然だけではない気がする

俺を含め、ちょっと特殊な環境の生徒が集まっている気がするしな

家出の北川

怪しい推薦状を携えた編入生の俺

タクティス皇国からの留学生の折原と長森さん

寡黙なだけかもしれないが、遠野さんや川澄さんもただの生徒、って感じはあまりしない

秋子さんの手腕を期待しての配置のような気もしないでもない――

 

「って、斉藤! レンには手を出すなって言っただろ!!」

「えー。こんな可愛い娘、ほっとくなんて俺にはできない!」

 

こいつは本当に馬鹿かっ!

レンは相手にもしていないが、斉藤はまたレンの席の近くに来て声を掛けていた

幼女――見た目的には12歳ぐらいの少女だぞ?

それを口説く17歳はどうかと思うが……斉藤の女ったらしは皆わかっているようで、特別咎めたりはなかった

 

「今の内に言っとく。マジでレンに手を出したら――わかるな?

「……フフフ。望むところだ相沢ぁっ!」

「えぇっ!? お、おい折原! 勝手なこと言うな!!?」

 

殺気を当てて言ってやれば斉藤も悪寒でも感じたのか、僅かに腰が引ける

その後ろから変な声が返事を返してきた

紛れもなく――折原だ

斉藤の声色でも真似たつもりなのか、変な声で斉藤の背にこっそりと隠れて喋っていた

その馬鹿な光景を見て、思わず肩の力が抜けてしまった

慌てる斉藤の姿がおかしくもあったけど、な

 

「とまぁ、こんな感じだ。よろしくな、相沢」

「……あぁ、よろしく北川。おまえの善戦を期待する」

 

俺の脱力した台詞に北川は俺の肩に手を乗せ、嬉しそうな笑顔でこう言い返してきた

その台詞に俺の肩が更に重くなったのは言うまでもないだろう

 

「それは俺もだ、相沢」

 

 

 

 

 

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